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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第104話 憂国 その4
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すが」
 挑発というよりは確認のつもりだろうけれど、かなりアホな質問だったので俺も皮肉たっぷりの口調で答えたが、パトリック氏はウンウンと納得したように頷いて言った。
「やはり中佐は平和主義者ではないですな」
 戦争屋ってところは否定しないのが実にパトリック氏らしいところではあるが、俺に対して平和主義者という冠があまりお気に召さないのかもしれない。
「私は自分のことを平和主義者と思っておりますが?」
「……なるほど。中佐はどうやら誤解しておられるようだ」

 そう言うとパトリック氏は携帯端末を取り出して幾つかのサイトにアクセスすると、取材用のメモ用紙に書き込んで俺に差し出した。読んでみればハイネセンポリスから少し離れた、市街地内にあるマンモス私立大学のサテライトキャンパスと思われる住所とグエン・キム・ホア平和総合研究会という名前に、開催予定の講演・勉強会の日時が書かれていた。

「巷で言う『平和主義者』とはどういうものか。そこに行けばきっと中佐殿もお判りいただけると思いますよ」

 そういうパトリック氏の顔は、何故か苦虫をかみ砕いたかのような渋い顔をしているのだった。





 その四日後。俺は仕事を無理に定時で上げて、パトリック氏が紹介してくれた平和総合研究会の講演・勉強会に赴いていた。

 流石に軍服で平和主義者の会合に赴くのは憚られると思ったので、いつものようにトイレで付け顎髭のボサボサ髪をした底辺青年労働者の装いに着替えた。念のためボタンを一つだけ新品に付け替え、クロスバックを肩にかけてメトロを乗り継ぎ、サテライトキャンパスのあるパインウッド・ヴィレッジ街を歩く。

 時間は夜半。仕事帰りのビジネスマンは足早に帰路へ向かい、同じ私立大学の学生と思しき若人達は徒党を組んで笑い声を上げながら飲食店街へと向かっていく。住人達の生活レベルを見てちょっと衣装を間違えたかなとは思ったが、奇異にみられるほどではないので、表通りを避けて裏通りを縫うようにしてサテライトキャンパスに向かう。

 目的のサテライトキャンパスは表通りから二つ奥に入った箇所にある一三階建てのビル。入口受付では小綺麗な女子学生達が、勉強会に来た聴衆にパンフとキャンディ・ジュースなどを配っている。開場したばかりなのか、まだ受付に列が形成されていたのでその後ろに並び数分後、列の前の人同様にペンで『ビクトル=ボルノー』と記名すると、俺に対した黒髪の女子学生が胡散臭そうな視線を向けてきた。

「あの、おじさん。もしかして並ぶ列を間違えてませんか?」

 目元も二重でぱっちりして、『しっかりと』ナチュラルな化粧をしている女子学生は、何か意を決したような表情を浮かべてそう言った。確かに前世も入れればとうに中年の後半に達してはいるのだが、青年労働者想定
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