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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第104話 憂国 その4
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死せずに一生を終える。そのくらいの長さの平和が望みですね」
 やはりというか。予想通り俺の回答にパトリック氏の目が点となった。
「……平和? 軍人の貴方が?」
「軍人が平和を望んじゃ可笑しいですか?」
「いえ、そうではありませんが、もっとこう、普通に帝国に対する勝利とか、おっしゃるかと思いまして」
「私はそれほど勇ましい人間ではありませんよ。『平和主義者の戦争屋』、そんなところです」
「中佐が平和主義者? とてもそうは思えませんなぁ」

 同盟に産まれた時から刷り込まれるような専制主義への抵抗と民主主義の擁護。建国神話から始まる反帝国的な教育内容。いいか悪いかは別として、数的に圧倒的優位に立ち武力を以って征服を目論む銀河帝国に対し、平和は武力を以ってでしか獲得できないという自由惑星同盟という植民国家維持の為に行わるある意味での洗脳。
 パトリック氏もその教育を受けてきている上で反軍的思想を持っているのは、ひとえに組織である軍と構成員である軍人の度を越した暴虐無人さに対する嫌悪であろうことは想像に難くない。

 ヤンがそうではないというのは、恐らく幼少期における教育の賜物だろう。父親の交易船で暮らし、学校で教師に教わったり、学友と交流することが殆どなかった。映像学習は当然していただろうけど、身近にいた精神的な教師は、変わり者の父親だけだった。

「私としては帝国と講和して戦争がなくなればいいなとは、いつも思ってますよ?」
「……もしかして中佐は本気で帝国との講和を望んでいらっしゃる?」
「個人的な意見ですが、帝国が同盟に対しイゼルローン回廊からこちら側の主権を公認し、交渉において軍事的オプションを放棄するというのであれば、講和という選択肢も『あり』だと思いますよ」

 だからこそこちらの世界に来ていろいろな人にこのことを話すと、(ヤンのようなごく少数の例外を除いて)意外というか、『コイツ、頭おかしいんじゃないか』みたいな表情をする。勿論、パトリック氏も少数の例外ではなかった。

「そんなこと、到底帝国は認めんでしょうな……」
「なので、認めるよう私もいろいろと努力しているという次第です」
 にっこりと笑みを浮かべつつ、手が止まったパトリック氏に代わってリンゴをフォークで摘み取る。エルヴェスダム氏の言う通りまだまだ道半ばの味だが、解放からまだ一年で農産品の輸出ができるまでになった帰還民達の努力の味がする。そんな俺の動きをパトリック氏は腕を組み首を傾げながら黙って見ていたが、フォークが五個目に取りかかろうとしたところで、ようやく口を開いた。

「先程お金の話が出ましたが、中佐は金で平和が買えるとはお考えでいらっしゃいますか?」
「買えると思いますよ。勿論現金や貴金属といった資源を、彼らに直接手渡すという意味ではないで
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