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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第104話 憂国 その4
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かるわけがない」

 いつの間にかチェン秘書官が剥いてくれたリンゴが半分以下になっていたが、容赦なくパトリック氏は残りのリンゴにフォークを刺していく。

「なので一つ、教えていただきたい。これは今後記者として判断の材料にしたいと思っていることです」
「答えられる質問であれば、答えます」
「ありがとうございます。この先、中佐が軍人としてどのような未来を欲していますか?」

 この質問を受けることになるのは、士官学校のヤン以来何度目だろうか。最終目的は変わっていないが、これまでの俺の経歴は目的を達する方向から随分と離れていっているように思える。

『Bファイル』の提出を俺が逡巡したことによって恐らくワレンコフは暗殺され、トリューニヒトは地球教と協力関係を構築する。この話をしていたサロン仲間の官僚達も、政治側の圧力で出世できず影響力を発揮できないかもしれない。ホワン=ルイには詳細を話していないが、レベロと同じ派閥である以上、過剰な軍事出費に対しては躊躇することだろう。

 シトレに対しての吹込みも、原作で彼が統合作戦本部長になった後も、相変わらずイゼルローン攻略に固執していることから、金銭と人間の命のバランスは俺ほどには傾いてはいないし、彼を取り巻く軍内政治状況がそれを許さないだろう。軍事費の増大については、レベロの幼馴染という点からもあまりいい顔はしない。ヤン達が大戦略を弄れるような立場に立った頃には同盟の経済はガタガタで、金髪の孺子一味にいいようにやられている。

 自分で拒否しておいてなんだが、やはり大衆側からのアクションが必要なのだろうか。専守防衛ドクトリンを民衆側から発起させるような、思想闘争を仕掛けるべきなのか。その火花をパトリック氏に託すべきなのか。Bファイルのような失敗は繰り返さない為にも、拙速に行動すべきかもしれないが、あまりにも不確定要素が多すぎて、ただズルをしているだけの俺の乏しい判断力では結論が出せない。

「中佐?」
 また軽く意識を飛ばしていたのか、いつの間にか蒼い顔をしたパトリック氏が立ち上がって右手を俺の眼前で振っていた。
「あぁ、ありがとうございます。パトリックさん」
「本当、大丈夫ですか、中佐。急に時間が止まったみたいに固まってましたよ」
「いやぁ、ちょっと考え事してました。すみません」
「……戦闘指揮する軍人とはとても思えませんなぁ」

 呆れ顔で再びソファに腰を下ろすパトリック氏に、俺は頭を掻いて誤魔化した。記事にされるにしても、癖と書かれるのは流石に不味い。何事もなかったようにジャスミンティーを手に取り一口つけると、改めて温和な好青年モードの笑顔を浮かべてパトリック氏に向き合う。

「それで未来の話ですが……私の希望は『平和』です。結婚して生まれた子供が、仮に徴兵されても戦
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