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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第104話 憂国 その4
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視点だ。国力比では一.二倍(四八/四〇)であっても、根本的な人口比では約二倍(二五〇億/一三〇億)。金髪の孺子に限らずとも『マトモな』執政官が帝国に登場すれば、人口比はそのまま国力比となる。

 軍事分野において兵器の質や生産性も軍事力においては重要な要素ではあるが、将兵となる人間の数の暴力は圧倒的だ。そんな不利な状況下で現在の同盟の国境防衛が成り立っているのは、シトレやロボスといった有能な前線指揮官と、機動戦力の制式艦隊偏重配備のおかげと言っていい。現実としてマーロヴィアなど帝国からの直接的な軍事圧迫のない辺境では、管区領域に到底足りない数の警備艦艇しか配備されていない。

 そのことはわざわざ現地に行ったパトリック氏なら理解しているはずだ。理解した上で質問しているということは、現在の同盟のドクトリンである機動防御とその結果としての制式艦隊偏重配備に対して疑義を抱いているということ。将兵の命のぶつけ合いの結果は、最終的に命の数の大小で決まる。心情的には俺とパトリック氏は同志に近い。だが今の俺はそれを記者のパトリック氏に言える立場にはない。

「その通りです。パトリックさん」
「高級士官である中佐殿は市井の経済状況をご覧になったことはないのですかな?」
「全てを把握することは無理ですね。神様ではないので」

 挑発に対して挑発で返した俺に、パトリック氏は血が頭に上ったのか文字通りにソファから立ち上がったが、それよりはるかに危険な冷たい顔つきのチェン秘書官が、皮をむいたリンゴの小皿を持ってこちらを睨んでいたので、おとなしく席に戻った。

「仰りたいことは分かります。同盟の人的資源余力が限界を超えつつあり、社会機構全体が軍を支えるどころか、もしかしたら国家を支えることすら叶わなくなりつつあるのではないか、と」
「……そこまで知ってて、なお中佐は軍事力が足りないとお考えになる?」

 一瞬の沈黙の後で、慌てて小さなフォークでリンゴを口に運びながら、パトリック氏は俺を見つめつつ問いかける。その顔には先程までの怒りが若干残ってはいたが、だいぶ落ち着いたものになっている。

「純軍事的に言えば、完全充足の一二個制式艦隊・三三個警備艦隊・一〇〇個巡視艦隊。乗員のいない戦略予備艦艇も含めて宇宙戦闘艦艇六〇万隻、陸戦部隊・後方勤務も含め軍人総計七〇〇〇万人というのが目標でしょう」
「それは夢物語だと、中佐は分かっていて仰ってますな」

 パトリック氏の声には嘲笑というよりは、組織にいる中佐の立場ならそう言わなければならならないのだろうなという憐憫が含まれている。だが実際のところ、アスターテ星域会戦直前には完全充足(第一一艦隊再編成中なので)まではいかなくても一二個制式艦隊は編成できていた。
 原作におけるそこからの凋落は見るも無残だが
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