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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第104話 憂国 その4
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状況に彼らは安住しているということだよ」
「一昨年、第四次イゼルローン攻略戦で七〇万人を失う大敗北を喫しましたが?」
「その代わりエル=ファシルがほぼ無傷で奪回されたことで、人々の戦争に対する嫌悪感はさほど変わりはなかった。むしろ反戦派への支持はより低下したよ。政府広報の腕前は賞賛に値するね」

 ソーンダイク氏の皮肉に、思わず俺は声には出さずに溜息をついた。その作戦における次席参謀を務めていたのは俺であり、戦争を利用した業界癒着のケツ持ちをしているのも俺だ。そう考えると、俺は今更だが反戦派に迷惑をかけていたことになるし、トリューニヒトが俺に対して必要以上に厚遇するのも少し理解できる。

「……『肉体労働者』の君に皮肉を言うのは大人げなかった。済まない」
 俺が溜息をついたことを、どうやら別の意味に誤解してくれたソーンダイク氏は謝罪してくれたが、敢えて誤解を解こうとは当然思わない。
「我々の、いや私の努力不足なんだろうな。平和主義者という言葉は今や、『侵略という現実を見ようとしない、政府を当てこするだけの夢想家』という程度の意味しか持たなくなってしまった」
 声を上げて政府の腐敗を糾弾し時折湧き上がる支持者から拍手にポーズをとって応える弁士に、冷たい視線を向けながらソーンダイク氏は嘯いた。
「トリューニヒト氏の登場以降、かなりの数の遺族会が我々に対する支持を止めてしまった。和平を主張するなら具体的にどのような方法があるのかと問われれば、言葉に詰まるのは我々だ。専門家である軍も戦争反対を謳う我々に知識で協力はしてはくれない。足りない知識で言えば言うほどボロが出るから、こういう現実になる」

 シンパとなるような軍人もいることだろうが、元から数は少なかっただろう。国防大戦略を掌るレベルの軍人は要職が、それ以下の中堅将校は出世が気になって寄り付かないし、下士官や兵士も自分達の功績を高らかに謳いあげるトリューニヒトの登場によって足が遠のいた。
 そしてトリューニヒトはそこまで見抜いた上で、和平派や反戦市民連合に俺を使わせないよう国防委員会に囲い込んでいる。さらに『Bファイル』の存在は国防委員会機密文書として扱われている以上、その内容をソーンダイク氏に話すわけにはいかない。

 アスターテで大敗北を喫し、イゼルローンで奇跡を起こした後のテルヌーゼン選挙区補欠選挙で、ヤンが赴くまで選挙戦を優位に戦っていたソーンダイク氏の、政治家としてのポテンシャルはそれなりにあると思われる。だが反戦市民連合の置かれた状況を冷静に分析できる知性があっても、基本的に戦争を憎む温和な善人であって職業政治家ではない。そのあたりはエル=ファシルの医師であるロムスキー氏と同じだろう。そして主義主張も立場行動もまるで正反対のアイランズ氏とも。

 ボンヤリとそんなこ
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