第104話 憂国 その4
[1/12]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
宇宙暦七九一年 三月 ハイネセンポリスから
「トリューニヒト氏は実際のところ、マーロヴィアでどれほどのことを成し遂げられたんです?」
パトリック=アッテンボロー氏の口から出てきた質問は、回答するのに実に面倒で、色々と答えにくいものだった。
単純にトリューニヒト氏が成した(と状況的に思われる)事をつらつらと話しても構わない。奴自身、やったことはあくまでも口利きだけであって、物的証拠を残すようなことはしていないので、パトリック氏は裏取りができないのだろう。ただ検察長官への逮捕状について国防小委員会・憲兵審査会から中央法務局に情報がジャンプするという『同一人格での経路(本人の内心)』については、機密保持法令上問題があると言える。
しかしそれだって、憲兵審査会で『明らかな証拠があるにも関わらず権限がない為、逮捕できない悪がいる』という現実を聞いた国防委員会理事が、『正義を実現する為に旧職場へ相談した』という美談にできる。逮捕代行を依頼したのは中央法務局で、実行したのはマーロヴィアにいる司令部付属憲兵隊だから、トリューニヒト自身の『手の上』に逮捕状があったことはない。
責任を伴わない功績盗人であるが、実際には口をきいて予定よりスムーズに事が運んだのも確かなのだ。あえて舌に麻酔をかけてベタ褒めしてやってもいいが、わざわざマーロヴィアまで行って現地取材する反軍的な名物記者に通用するとは思えない。
であれば、具体的な内容はあえて話さずにトリューニヒトの果たした役割を説明した方がいいかもしれない。ちょうど先週エルヴェスダム氏から、えらくもったいぶった文書と一緒にエル=ファシル名産の果物が届いていたはずだ。
「パトリックさんは、リンゴはお好きですか?」
「リンゴ、ですか? ええ、もちろん。大きい奴も小さい奴も嫌いではありませんが……」
トリューニヒトの話をしているのに、いきなり何言ってんだコイツ、と言った表情でパトリック氏が眉を顰める。珈琲の入れ替えに来たチェン秘書官は何も言わずにキッチンに戻っていったので、恐らくは『理解』してくれるだろう。
「もしかしたらご存知かもしれませんが、リンゴは苗木を植えた年から五年はマトモな果実は出来ません。果実ができるのは結果開始年齢と言うんですが、他の果実よりリンゴは少しばかり遅いんです」
「はぁ……」
「新しく苗木を植えるには土づくりから始めなくてはならず、これがまた大変です。植えた苗木も病気に弱く、土壌消毒は必ず行わなければなりません。剪定も重要です。とにかく手がかかります」
「それで?」
「我々大都市の消費者はそんなことも知らず、店舗や宅配でリンゴと相対します。それまでに生産者から集荷され、物流組織に乗り、卸売や仲卸業者などを通っているのですが、我々が出会うのはスーパ
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ