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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
夏日 その2
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もあって東独軍は、最前線が中央アジアというドイツ本土から遠い段階であるにもかかわらず、婦人兵の試験的な実戦配備を決めたのだ。

 ユルゲンの同僚、ツァリーツェ・ヴィークマンは、そうした人間の一人だった。
彼女は柔道と空手の有段者という事で体力もあり、なおかつ露語を巧みに使いこなす才媛である。
 東独政府の意向や世論を背景にして、彼女の未来は約束されたようなものだった。
ゆくゆくは東独発の女性戦闘航空団長という下馬評も、内局あたりから聞こえてくるほどだった。
 だが彼女は、24歳という若さで部隊から去り、大臣官房付けとなった。
予想外の妊娠とそれに伴う結婚によってである。
 この事によって、東独軍は混乱を起こした。
予定していた軍における女性の活躍推進というシナリオが狂ってしまったのだ・ 
 その様な時代の流れを否定するようなことを起こした、オズヴァルト・カッツェに対する上層部の怒りはすさまじかった。
一組の夫婦の誕生という個人的な問題は、カッツェの昇進見送りという政治的決着に落ち着いた。
 上層部から疎まれ、出世の機会も当分ないと思われていたヴィークマンの夫に出張の話が来たのは今朝だった。
昨日、ポーランドからの演習が終わったばかりだというのに……
 しかも場所はワルシャワやプラハではなく、極東だという。
指導部は何を考えているのだろうか……

 疑問に思ったヴィークマンは、食事という機会を利用して自分の夫に問いただした。
「どうして部隊勤務の貴方が日本なんかに……」
 ヴィークマンは、他人が聞いたらなんと無神経なと思われる言葉をかけた。
だが彼女は、カッツェがそういう物言いを好んでいることを知っている。
「今回の出張は判らないことばかりだ」
ジントニックに口を付けながら、カッツェは答えた。
「ただの戦術機乗りじゃない。
ああいう場所に出るのは、軍でももっと毛色の違った人でしょう」
「俺もそう思っていた」
 カッツェは正直に答えた。
「嫌なの。
だったら……」
 否定の言葉を口にしようとして止めた。
カッツェの表情が、まるで知り合いの葬式に行かざるを得ないような顔をしていたからだ。
ああ、断れない事情があるのね……
「とにかく行くだけ行って見るさ」

 東ドイツの首脳は、東京サミットに向けて出発した。
機種は、イリューシン62が2機と、随伴機のツポレフ134が1機。
 これは国営航空のインターフルークの持ち物で、BETA戦争前に購入した古い機種である。
とくにツポレフの方は航続距離が3000キロしかなかったので、日本に行くのは一苦労だった。
 ソ連上空を経由し、シベリアにある空港を使えば、比較的安全に訪日できたのだが、政治がそれを許 さなかった。
東独の首脳一行は、中東経由の南回り
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