第二章
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だから今供は呉だけだ。それは仕方ないというのだ。
「だからいい」
「左様ですか」
「若し普段の様に大勢引き連れて都に入ればな」
「雲南に気付かれますね」
「ことは大きくしないで芽を摘む」
特に謀反の件はだというのだ。
「それが政だからな」
「それ故にですね」
「ではとりあえずだ」
その寂れている長安の街を見回す。そしてすぐに近所の店を見つけた。
店の看板には麺だの豚だの書いてある。それを見て呉に言う。
「あの店でいいか」
「ええ、食べられるんなら」
呉は主にこう答えた。
「それなら何処でも」
「わかった。では入ろう」
「はい、それにしても本当にですね」
呉は再び今の長安を見回して述べた。
「寂れましたね」
「全くだな」
張は嘆かわしいものを感じずにはいられなかった。戦乱により変わってしまった長安に対してそう感じずにはいられなかった。
その思いを顔にも出して店に入る。するとだった。
店の中にも客はまばらだ。活気もなかった。
まさに今の長安の店だった。二人はこのことにも内心溜息を吐きながら麺を注文した。そのうえで麺を食べようとした時に。
張は箸を手にしたところで店の端にいる老人を見て思わず目を剥いた。そうして自分の向かい側に座る呉にこう囁いた。
「おい、大変だぞ」
「大変とは?」
「先の万歳爺がおられる」
こう彼に囁いた。
「あそこにな」
「あのご老人ですか?」
「そうだ、間違いない」
感情がうわずるのを必死に抑えての言葉だった。
「あのご老人はな」
「まさか。この様なお店に」
「万歳爺の龍顔を忘れると思うか」
一度会えばだというのだ。
「わしはそうした者か」
「いえ、違います」
呉はこのことは真顔で答えた。張は唐への忠誠心の篤い男だ。そして先の皇帝をとりわけ敬愛していた。その彼がだというのだ。
「断じて」
「そうであろう。あの方は間違いなくな」
「先の万歳爺ですか」
「間違いない」
またこう言う張だった。
「お忍びで来られているのか」
「しかし供の者がおりませぬ」
「連れていてお忍びになるか」
「いえ」
これは言うまでもなかった。
「我等もそうですし」
「そうであろう。まあいてもじゃ」
「見える場所にはいませんか」
「そういうことじゃ。しかしこの店がお気に入りなのだろうか」
「そうなのでしょうか」
「それはわからぬがな。とにかくじゃ」
ここはどうするかというのだ。
「知らぬ振りをするのじゃ」
「そうしますか」
「こうしたことは気付いてはならぬ」
若し気付けばお忍びにならないというのだ。
「そういうことじゃ」
「そうされますか」
「うむ、それではな」
「わかりました」
呉も張の言葉に頷く。そう
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