人形劇
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ね?」
「今日は、さっきから奥で資料の精査をしています。何でも、論文を提出しないといけないとか」
えりかは研究室の奥へ目線を投げた。
彼女の視線の先には、整えられた資料の山岳地帯の向こう側で作業に没頭する教授の後ろ姿がある。室内なのに黒い衣装も相まって、より高い穹窿地帯にも思える。
市長は彼の後ろ姿を眺めながら、茶を口に運ぶ。
「ふむ。気にせず、彼の作業を続けさせよう。今日の予定は全て終わらせてきた。気長に本でも読みながら、待たせてもらうとしよう」
「ごゆっくりどうぞ」
えりかは純粋な笑顔を向け、ハルトへ向き直る。
「松菜さん、今日の手伝いはもう終わりですか?」
「そうだね……まあ、教授に報告したいから、流石に作業に一区切りつくまで待たなきゃいけなさそうだけど」
「いえ。申し訳ありませんが、まだまだ続きそうです」
だが、それを遮る教授の声。
いつの間にか彼は作業を一時中断し、こちらへ歩いてきていた。
「松菜さん。どうやら片付けはしていただけたそうですね。ありがとうございます」
「いいえ……」
黒い面で研究室内を見渡しながら、教授は言う。
大きな山が乱立していた室内が、いつの間にか整頓された書類の束の集合体になっているのだ。動きやすくなり、驚嘆していることだろう。
教授はそのまま、ハルトの前を通り過ぎ、市長のもとで足を止めた。
「すみません。今日は予定外の仕事が入り、定期連絡を受ける時間がありません」
「構わんよ。友人である君を尋ねたら、たまたま都合が付かなかったというだけの話だ」
市長はお茶を再び口に含む。
「では、また出直すことにしよう。埋め合わせの際は、何か食事でもおごってもらおうか」
「ええ。近いうちに。松菜さんも、本日はこれで手伝いを終えて頂いて構いません。また明日、雑務の手伝いをお願いします」
「分かりました」
反射的に、ハルトの口が動いた。
同時に、市長も席を立ち上る。
「それでは、私も共に失礼するとしよう。松菜君、御一緒にどうかな?」
「はい、是非……」
「蒼井さん、駅まで送ってあげてください」
「はい」
えりかの声とともに、ハルト、市長はそれぞれドアへ向かう。
その時。
「こんにちわー!」
薄暗い研究室にそぐわない、明るい声が聞こえてきた。
ハルトが手をかけるよりも先にドアが開き、そこから明るい表情の少女が現れた。
「おお、これはこれは。入れ替わりのお客さんかな?」
「いえ。彼女は私の学生ではありませんね。……おやおや。君は……」
教授の黒い仮面が、静かに来客を見つめる。そして。
「ああ。聞いていますよ。衛藤可奈美さん。私と同じ、参加者だそうです
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ