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梨園の夢
第一章
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                 梨園の夢
 戦乱が終わった。平和な世の中が戻った。
 しかし何もかもが変わってしまった。唐はかつての唐ではなくなっていた。
 戦乱の前の繁栄も活気も失せてしまった。何か寂しい。
 それは都長安でも同じでどうかというと。
「何か違いますな」
「そうだな」
 成都から都に戻ってきた張七才は従者の呉備にこう返した。二人は記憶にある長安と今の長安の違いに愕きこう言ったのである。
「何か違うな」
「はい、人が静かです」
 呉は長安の人々を見て言う。人の数も減ったが何よりだった。活気がなかった。
 道行く人々もそして店もだ。とにかく全てがだった。
 活気がなく覇気がない。しかもだった。
 店の品物の数も種類も少ない。安禄山の軍勢が荒らした後は消えていたがそれでもだった。覇気も活気も消えていた。
 それでだ。張も言うのだった。
「戦乱のせいではないな」
「それだけではありませんか」
「何もかもが変わった」 
 こう呉に言うのである。
「奪われたと言うべきか」
「あの戦乱で、ですか」
「そうだな、あのせいだな」
「あの男はとんでもないことをしましたね」
 呉はその何もかもが変わった長安の町並みを見ながら主に述べた。
「安禄山は」
「そうだな。しかしな」
「しかし?」
「戦乱だけか」
 それで全てが変わったかというのだ。
「戦乱だけでこうなったのか」
「といいますと」
「何もかもが変わった」 
 張もまた今の長安を見て言う。
「決定的な何かが消えた」
「消えましたか」
「そうだ、消えた」
 そうなったというのだ。
「それは何故だろうな」
「それは私には」
「わからないか」
「はい、旦那様は」
「私もだ」 
 首を捻ってだ。張は呉に返した。
「わからない。しかしだ」
「しかしとは」
「万歳爺も代わられた」 
 皇帝も代わっている。先代の皇帝は退位し上皇となっている。玄宗という呼び名が既に定められかけている。
 その玄宗についてもだ。こう言うのだった。
「素晴らしい方だったが」
「それでもですね」
「言うまい」
 至尊の存在に言うことは出来なかった。
「そのことはな」
「そうですか」
「とりあえずだ」
 張はここで話を変えた。
「まずは腹ごしらえだな」
「そうですね。しかし」
「しかしか」
「旦那様、今回は」
 呉は困った顔で張に言うのだった。
「どうにもですね」
「二人で来たからな」
「旦那様は万歳爺にもお会い出来る程の方というのに」
 だから呉だけでなく多くの者を引き連れて都に上れたというのだ。しかし今供をしているのは彼だけだ。そのことについて言うのだ。
「残念ですね」
「いや、今回来た理由が理由だからな」

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