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金木犀の許嫁
第二十五話 赤い自動車その七

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「戻らずあの国において」
「地獄を見たんですね」
 真昼はこの言葉を出した。
「そうですね」
「そうでした」
「あそこはとんでもない国ですからね」
「悪いお話しかないですね」
「本当に」
「そして地獄を見たのですが」  
 一人も帰らずというのだ。
「誰もです」
「責任を取らなかったんですね」
「それどころかです」
 責任を取るどころかというのだ。
「政府を批判しています」
「あれっ、この場合政府は」
「関わっていません」 
 日本政府はとだ、幸雄はきっぱりと答えた。
「総連が行いある政党やその政党を支持する人達が」
「行ったことですね」
「その政党は北朝鮮べったりでして」
「北朝鮮と関係が深かったんですね」
「極めて親密でした」
 そう言っていい関係だったというのだ。
「そしてです」
「帰国事業をやったんですね」
「政府としては」
「関わっていないですね」
「そうした人達が行ったのですが」
 そうであったがというのだ。
「そうした人達がよりによってです」
「自分達がしたことなのに」
「政府を批判しています」
「それって責任転嫁ですよね」
 真昼は顔を顰めさせて言った。
「そうですよね」
「はい、まさにそうですね」
「無茶苦茶なお話ですね」
「こんな酷いお話もあったのがです」 
 実際にというのだ。
「戦後の日本でした」
「巨人が人気が出るのも当然ですね」
「北朝鮮が平和勢力と言われていたのです」
「あそこがですか?」
「共産主義は平和勢力と思われていたので」
 このことはソ連のアフガン侵攻までそうであったがそれ以降もそうした考えは残っていて二十世紀に至る。
「ですから」
「北朝鮮もですか」
「共産主義国家であり」
 そうであってというのだ。
「そしてです」
「平和勢力って思われていたんですね」
「いい国とさえです」
「あんな国でもですね」
「思われていまして」
 そうであってというのだ。
「マスコミの宣伝で」
「悪質なプロパガンダですね」
「そうしたことがまかり通っていて」
「巨人もだったんですね」
「ある漫画でもです」 
 幸雄はこうも話した。
「最初主人公が巨人にいて」
「もうお約束だったんですね」
「ライバルのキャラクターは他チームにいたんですが」
「あっ、巨人が強奪したんですね」
「それが仲良く野球出来る様にしたという美談にです」
「なったんですね」
「そうしたことが普通でした」 
 スポーツマン金太郎という漫画でのことだ、作品としては名作と言っていい。寺田ヒロオの代表作の一つである。
「恐ろしいことに」
「今じゃ考えられないことですね」
「そうした悪質なプロパガンダがです」
 それがというのだ。
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