第三部 1979年
迷走する西ドイツ
卑劣なテロ作戦 その3
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数を、全て告白すればいい」
「なんでだ!断る」
そこでマサキは、愛用のホープを取り出し、タバコに火をつける。
煙草を五、六服吸ったかと思うと、すこし微笑しながら声をかけてきた。
「じゃあ、断ればいい。
その代わり、緑の党のマドンナと、ドイツ陸軍の将軍の乱痴気騒ぎ。
赤裸々で刺激的な総天然色写真と共に、楽しい記事が、明日のビルトの一面を飾るだけさ」
ビルトとは1952年創刊のドイツ最大のタブロイド紙である。
政治的には中道右派で、スポーツ新聞ながら西ドイツ政界に大きな影響を与えていた。
創刊当時から東ドイツの事を、共和国ではなく、ソ連占領地域と呼称していた。
一面に水着姿の婦人や裸婦写真を載せ、婦人解放運動や極左団体から目の敵にされていた。
女は真っ赤になりながら、呟く。
マサキは、吸いつけたタバコを口にくわえたまま、ニヤニヤ笑って眺めていた。
「ひどい……」
「ひどいのはあんたたちだ。
国や軍、西ドイツ市民を裏切って、赤共の手先になっているのだからな。
余計な事を言うんじゃない。
俺を怒らせれば、全てを公表して、世間を歩けないようにしてやる」
マサキの意外な声に、バスチアンはたじろいだ。
女は、バスチアンの顔を見る。
バスチアンは、小さくうなづいて、こう切り出す。
「や、約束は守ってくれるね……」
「くどいのは嫌いなんだよ」
マサキはわざと苛立った声を出すと、バスチアンはもう一度女を見て、うなづいた。
「さあ、全部白状するんだ」
バスチアンの口から出た人物は、ドイツ連邦議会の議員の他に、反戦団体の幹部だった。
長年、反戦運動を行ってきたマルチン・メラーニー師やヨーゼフ・ヴェーバなどである。
ヴェーバは、ドイツ共産党系の団体、ドイツ平和同盟幹部のメンバー、ヨーゼフ・ヴェーバー。
特に力を入れた西ドイツの反核運動は、東ドイツで高く評価された。
これを受けて、東ドイツから1973年に平和友好メダルを授与された人物である。
前の世界の記憶が確かなら、モスクワからも、1985年に国際レーニン平和賞を贈与されたはず。
米誌、リーダーズダイジェストに「モスクワの代理人」と書かれ、憲法擁護庁などは「ソ連の第五列」と評した人物だった。
マサキは、バスチアンと女を手錠で縛った後、ドイツ大統領府の元に急いだ。
この際、西ドイツの反戦平和団体を一網打尽に壊滅させることにしたのだ。
アイリスディーナのためのドイツ統一という名目に、共産主義の復讐という自分の欲望が加わった。
この異常な状態が、マサキを次第に興奮させていった。
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