激闘編
第九十一話 憂い
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人事に口出しする事のないクラーゼン元帥ですら反対だったからな。確かに功績はあげた、だがそれは一個艦隊の指揮官としての物に過ぎぬ、複数の艦隊を率いて戦う事が出来るのか、と。それに…」
「小官の出自、でしょうか」
「それもある。だが一番の理由は卿がブラウンシュヴァイク一門の子飼いと見られている事だ」
そうだ。姉上がブラウンシュヴァイク公の庇護を受けている以上、俺も公の子飼いという事になる。地位を得る為には仕方ないと伯爵の参謀になった時からそれは覚悟していたが…。
「変事が起きた時、卿がブラウンシュヴァイク公に与すると思われているのだ。もしそうなったらミュッケンベルガー元帥がオーディンに留まる意味がない。宇宙艦隊は二つに割れる事になる」
変事…皇帝の死、だろう。このまま皇帝が後継者を決めぬまま死ねば、ブラウンシュヴァイク一門とリッテンハイム一門とで後継者争いが起こるのは間違いない。それを防ぐ為にミュッケンベルガーは帝都に残る…確かに俺がブラウンシュヴァイク公に付いたら、ミュッケンベルガーの行為は無意味になる。叛乱軍に知れたら混乱に乗じて攻め込んで来るだろう…。
空になったグラスを見つめていると、ハイデマリー嬢が新たにブランデーを注ぎ出した。
「小官や姉上が伯爵並びにブラウンシュヴァイク公から並々ならぬご厚情を頂いているのは事実です。ですがそれは私事に過ぎません。小官個人の問題以前に、小官には帝国の安寧を護る大事な任務があります」
「…そう割り切る事が出来るのか?姉君はどうなる?陛下が崩御なされたら、またぞろベーネミュンデ侯爵夫人辺りが騒ぎ出すであろう。リッテンハイム侯も侯爵夫人を利用するかもしれん。卿は軍務だ、姉君を守る事が出来るのか?その事をブラウンシュヴァイク公に指摘された時、卿は私事は私事、軍務は軍務と割り切れるのか?」
「それは…」
充分に考えられる話だった。最悪の場合、ブラウンシュヴァイク公は姉上の命を奪うと強迫してくるかも知れない。
「…心しておく事だ。畏れながら、陛下とて不老不死ではいられない、死というものはいつ訪れるか分からんからな。副司令長官ともなればもはや簡単に首をすげ替えられる存在ではない。軍務次官、統帥本部次長、幕僚総監と並ぶ軍の要職だ。新任の大将ながらその職に就く…生半可な覚悟では務まらんぞ」
「はい。覚悟しております」
伯はそう言うと、分かった分かったとハイデマリー嬢に投げやりに答えてグラスを一気に飲み干した。
ハイデマリー嬢が頃合いとみたのかハット夫妻を呼んだ。有無を言わさず酒を片付けてしまうつもりなのだろう。
「閣下のお話を聞けて、心から良かったと安堵しております。本当に来て良うございました」
「これからは副司令長官と呼ばねばならんな」
「それはちょっと…」
「はは…今日は泊まっていく
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