第二章
[8]前話
「一度あちらにも行って」
「サナトリウムにもだね」
「振り返ってみようか」
「そうしたらいいよ」
「それではね」
友人の言葉に頷いた、そうしてだった。
実際にその頃を振り返ってみた、そしてサナトリウムに足を運んでみた。すると施設のあちこち、庭だけでなく建物の中の至るところにだ。
草木があった、当然花だ。それはまるで森の中にいる様で。
クロフォードは久し振りに会った医師にサナトリウムに緑が多いのではないかと尋ねるとこう言われた。
「はい、患者の方のことを考えまして」
「それでなんだ」
「緑はです」
即ち草木はというのだ。
「多くです」
「置いているんだ」
「そうです」
まさにという返事だった。
「緑は空気にいいので」
「だからなんだ」
「空気がいいですと」
「ああ、結核の人にもいいね」
「左様ですね」
「それでなんだ」
「こちらは緑が多いです」
そうだというのだ。
「そうしています」
「意識して、だからか」
「だから?」
「いや、ここにいた頃の絵は緑が多いから」
医師にこのことも話した。
「どうしてかと思っていたら」
「いつも緑をご覧になっていたので」
「だからだね」
自分でもわかって言った。
「それでだね」
「それで、ですか」
「絵にもだよ」
自分のそれにもというのだ。
「出ていたんだね。目に入って。それに」
「それに、ですか」
「緑は癒しの色だし」
だからだというのだ。
「癒されて結核を治したい」
「その気持ちもあってですか」
「それでだよ」
その為にというのだ。
「緑の絵を描いていたんだね、僕のその時の世界は緑だったから」
「絵の色もですね」
「緑だったんだよ、青の時代じゃなくて」
ピカソのその頃のことを思い出して話した。
「緑の時代だった、結核は治ったし」
「もう大丈夫ですよ」
「そうだしね、緑の時代もね」
これもというのだ。
「悪くないよ、それじゃあ」
「それならですね」
「その緑の時代をね」
まさにそれをというのだ。
「忘れないよ」
「ご自身のそれを」
「それで先生をしながら」
学校の美術のというのだ。
「描いていくよ」
「そうされますか」
「これからもね」
こう言って実際に描いていった、やがて彼は教師として以上に画家として知られる様になった。そしてサナトリウムの頃を自分から緑の時代と言いサナトリウムの色を緑と言うのだった。
サナトリウムの色 完
2024・2・14
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