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サナトリウムの色
第一章
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                サナトリウムの色
 結核になってロンドンを遠く離れたサナトリウムに入ってであった、ウィリアム=クロフォードはぼやいて言った。
「ここで暫くだね」
「治療にあたってもらいます」
「そうだね、嫌なものだね」
 医師にこう返した、背は一七七程で整えられた茶色の髪で目は緑である。彫のある顔立ちで痩せている。
「結核になるなんて。ただ今は抗生物質があるね」
「ですから確実に助かります」
「それはいいことだね。ちょっと前まではね」
「結核になりますと」
「もう駄目だったね」
「そうでした」
 石は真面目な声で答えた。
「その時は」
「そうだったね」
「まことに」
「そのことを思えば」
 それこそとだ、クロフォードは言った。
「いいね、じゃあここにいる間は」
「どうされますか」
「ハイスクールで美術を教えているんだ」 
 これが彼の職業だ、とはいっても教師になってすぐに血を吐いて診断を受けると結核と言われてここに入った。
「だから絵を描いていいかな」
「無理は為されないで下さいね」
「わかっているよ、けれど絵を描いて」
 そうしてというのだ。
「暫く過ごすよ」
「ここにおられる間は」
「そうしていくよ」
 こう言ってだった。
 クロフォードはサナトリウムにいる間絵を描いて過ごした、入院しているので時間はかなりあってだ。
 治療を受ける間絵を次から次に描いていった、そうして一年程入院してから退院して仕事にも復帰したが。
 サナトリウムにいた頃の絵を人に見せるとだ、画商である彼はいぶかしんでクロフォードにこんなことを言った。
「君は実に色々な色彩を用いるが」
「そうして描いているね」
「そう、しかしね」
 それがというのだ。
「君がサナトリウムにいた頃の絵はね」
「今見ると緑が多いね」
「そうだね」
「私は描く絵は意識せずにだよ」
 そうしてというのだ。
「気持ちの赴くまま、またモデルを見てね」
「描いているね」
「感性を大事にしてね」
 そうしてというのだ。
「描いているんだ」
「そうだね、そしてサナトリウムにいた頃の君の絵を見ると」 
 そうすればというのだ。
「緑が多いね」
「うん、何を描いても」
 そうしてもとだ、クロフォード自身も自分の絵を見て言った。
「緑が多いね」
「基調になっているね」
「そうなっているよ」 
 自分から言った。
「どうにも」
「それで今の絵だけれど」
 画商の友人は今度は近頃の彼の絵を見て話した。
「随分色々な色を使っているね」
「入院前と同じだね」
「そうなっているよ、どうしてかな」
「さて」
 問われてだ、クロフォードは首を傾げさせた。
「一体」
「君もわからないんだ」
「そう
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