第四章
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「それで何故その言葉に従った」
「敵の子を生かしておいては禍になるぞ」
「異朝を見よ」
宋のことだ。その国の過去の歴史のことがここで話される。
「あの国では敵の子はまず殺す」
「一族どころか三族皆殺しよ」
「そうして禍が及ばぬ様にしておる」
「源氏ならそうしておるぞ」
「しかし何故血のつながらぬ母親の言葉に従って助けた」
「やがて禍になるやも知れぬに」
「源氏が残ってはな」
「血は出来るだけ流したくはない」
清盛は前を見て言った。
「ましてやまだ幼い者を殺すのはな」
「好かぬか」
「そうか」
「その牛若はまだ赤子じゃった」
清盛が言うのはこのことだった。
「赤子の命を奪うのはな」
「出来ぬか」
「そうなのじゃな」
「言ったな。血は出来るだけ流したくはない」
確かに義朝は追い結果として死なせた、二つの乱の首謀者達も斬ってはいる、保元の乱では己の叔父達も斬っている。
だがそれでもだというのだ。
「そういうことじゃ」
「だからか」
「助けたか」
「甘いと言うか」
「甘いのう」
「ひたすら甘いわ」
しゃれこうべ達はここぞとばかり清盛に言う。
「何時か寝首をかかれるぞ」
「源氏を慕う者も多いのじゃ」
「そして御主を嫌う者も多い」
「兵を挙げる際の旗印にされるぞ」
「ましてや頼朝は源氏の嫡男ではないか」
義朝の子だ。その中でもとりわけ血筋がいいのだ。
その彼を生かしておいてはどうなるか、しゃれこうべ達が言うまでもなかった。
だがそれでも清盛は彼を殺さなかった、彼はそのことを今言われた。
そのしゃれこうべ達に対して清盛はこう答えた。
「そうなるやも知れぬ。しかしじゃ」
「それでも子は殺せぬか」
「小さな子は」
「何度も言うが無闇に血は流したくないし子も殺さぬ」
清盛は言った。
「それには忍びないわ」
「そうか。あくまでか」
「御主はそう言うか」
「うむ。それで言われるなら仕方がない」
今のしゃれこうべ達の批判も受けるというのだ。
「言葉を受けよう」
「わかった。御主の心はな」
「ではその心通りに生きるがいい」
「よいのだな」
清盛はそのしゃれこうべ達に返した。
「わしは甘いままで」
「甘いと言うか仁と言うかはわからぬがな」
「しかしそれでもじゃ」
「御主のそうした心は我等は知った」
「ならそのまま行くがいい」
これがしゃれこうべ達の返事だった。そして。
彼等はその清盛にこうも言ったのだった。
「だが。御主のしたことは後世で何かと言われるやも知れぬ」
「そして御主が殺さなかった者達に貶められるやも知れぬ」
「そうしたこともよいのじゃな」
「そうなのじゃな」
「何かをして後悔することもせぬ」
また言う清盛だった
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