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入道の返答
第四章
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「未練は武士に相応しくないわ」
「未練はない、か」
「左様か」
「わしの言いたいことはこれで終わりじゃ。そちらの聞きたいことはまだあるか」
「いや、ない」
「我等も聞きたいことは終わった」
「ではじゃ」
 彼等から清盛に言う。
「御主の場所に戻るがいい」
「そうせよ」
 こう清盛に告げて彼等は姿を消した。清盛は彼等がいた原を暫く見回したがそれを終えて重盛達が待っている場所に戻った。すると重盛達はすぐに心配する顔で言ってきた。
「父上、ご無事でしたか」
「お帰りが遅く心配しました」
「一体何があったのですか?」
「うむ、話をしておった」 
 清盛は穏やかな笑みで己を気遣う彼等に答えた。
「少しな」
「話をですか」
「そうなのですか」
「うむ。そうじゃ」
 こう答えた清盛だった。
「狐や狸やも知れぬが少しな」
「おお、狐や狸ですか」
「その程度の者達ですか」
「鬼等ではないのですな」
「うむ、別にそうした者達ではなかった」
 しゃれこうべ達のことは狐狸の類と説明したのだ。
「安心せよ」
「そうですか。大事はなかったですか」
「それならよいです」
「では今より」
「うむ、帰るとしよう」 
 穏やかな顔で答えた清盛だった。そして。
 彼等は帰途についた。清盛はこの時のことを死ぬまで話さなかった。だがこのことは彼の心に強く残り。 
 時折酒の場でふとこんなことを漏らすことがあった。その漏らす言葉とは。
「仁は甘さやも知れぬか。しかしそれならそれでよい」
 この言葉の意味は誰にもわからなかった。言葉の真意は清盛しか知らないことだった、だが彼は時折この言葉を呟いたことは確かでありその真意があるのも間違いないことである。彼と彼等だけが知っていることだが。


入道の返答   完


                            2012・9・21
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