第一章
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独眼龍の怒り
伊達政宗はこの時激怒していた。腹心である片倉小十郎に対して憤懣やるかたないといった顔でこう言う。
「何じゃ、近頃の風潮は」
「服のことですか」
勘のいい片倉は怒る主にすぐにこう返す。
「そのことですな」
「そうじゃ。服が乱れておる」
こう言って怒るのだ。
「服はしっかりと着てこそじゃ」
「殿はいつもそう仰っていますな」
「わしの服を見よ」
確かに格好がいい。政宗は人一倍己の服に気を使うことで知られている。とにかく見栄えがいい服を常に着る。しかしだった。
その服の着こなしは生真面目だ。端正ですらある。その端正な身なりで片倉に対して言うのである。
「服とはこうしてじゃ」
「生真面目に着るものですか」
「それがよいのじゃ。しかしじゃ」
政宗はさらに言う。
「近頃。我が藩でもじゃ」
「確かに乱れておりますな」
「許せぬ。断じてな」
さながら戦場にいるかの様だった。政宗は目を怒らせて言う。
「この風潮。あらためるぞ」
「ですがこれは」
「流行なぞ知らぬわ」
着こなしの流行は徹底的に嫌う政宗だった。
「そんなものはな」
「ではそれがしが」
「いや、わしが言う」
主である政宗自身がだというのだ。
「よい。それはな」
「そうされますか」
「全く。この風潮はじゃ」
憤懣やるかたないといった感じでの言葉が続く。
「断じて許さん」
こう言ってだった。そのうえで。
政宗は実際に家臣達を集めて告げようと彼等を集めようとしていた。しかしその最中にだった。
城の廊下を歩いていると右手の襖の一つから声を聞いた。それに気付いてその襖を少しだけ開いて中を覗いてみると。
彼の小姓達が話していた。その話はというと。
「で、こうじゃな」
「うむ、そうじゃ」
「袴はそう穿くのじゃ」
彼等は服の着方を話していた。その着方はというと。
政宗が嫌う着方だった。着崩したものだ。
「そして上の着こなしはこう」
「ああ、いい感じじゃな」
「それよいのう」
見れば丈が合っていない上着をあえて着ている。それがいいというのだ。
そして髷もだった。これは。
「こうしてさっと無造作にまとめる」
「これがよいうのう」
「うむ、流行じゃしな」
「わし等もこうして洒落た格好をせねばな」
「流行に遅れてしまうぞ」
「全くじゃ」
こんな話をしていた。それを襖から覗き見ていた政宗はというと。
身体をわなわなと震わせ彼等の話が一段落したところで部屋に怒鳴り込んだ。そしてこう言うのだった。
「このたわけ者共!」
「えっ、殿!」
「何故小姓部屋に!」
「全て聞いておったわ!何ということじゃ!」
その隻眼をこれ以上はないまでに燃え上が
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