第一章
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知略
この時小田原城は紛糾していた。
北条氏は相模、伊豆から西関東の中心地である武蔵に進出していた。その要である河越城からさらに勢力を拡大しようとしていた。
だがそれに関東の諸大名達が異議を唱えた。そうしてだったのだ。
「あの犬猿の仲の両上杉が手を結ぶとはな」
「早雲様の頃から時折あったが」
「しかも他の家も集まっておるぞ」
「まさに関東中の大名達が来ておる」
「敵の総勢八万」
「とんでもない数じゃ」
北条家の者達は小田原城の中で顔を寄せ合う様にして話す。
「対する我等は八千」
「数は十分の一」
「これではとても勝てぬ」
「十倍の敵なぞ相手にできぬわ」
「しかし河越を失えば武蔵を失う」
「我等はこの相模と伊豆に押し込められてしまう」
「そしてこのまま上杉達に押し潰されるぞ」
「あの城と武蔵を失う訳にはいかぬぞ」
「さて、困った」
実際に彼等は困り果てていた。十倍の相手に勝てるものではないがここで河越城も武蔵も失う訳にはいかなかった。
このジレンマに彼等は困っていた。しかしだった。
主の北条氏康はその彼等に言った。
細面の端正な顔だが顔には向こう傷がある。その為精悍に見えるその顔でこう家臣達に対して告げたのである。
「風魔の者達を密かに河越城に送るのじゃ」
「あの城にですか」
「風魔の者達を」
「うむ、そうせよ」
こう言ったのである。
「そして密かに連絡を取り合おう」
「ですが殿」
家臣の一人が怪訝な顔で氏康に対して言う。
「例え囲まれていても風魔の者達なら城に容易に入られますが」
「あの者達ならばな」
「ですがそうして連絡を取合ってもです」
「意味がないと申すか」
「僭越ながら」
その家臣は頭を下げて氏康に述べた。
「そうではないかと」
「敵は十倍じゃからな」
「勝てるものではありませぬ」
この家臣もこう考えていた。
「ですから城に人をやっても」
「まあ聞くのじゃ」
氏康はその家臣を咎めなかった。それどころか微笑みさえしてそのうえで他の家臣達にもまた告げたのだった。
「両上杉や他の大名達には講和を頼め」
「講和!?それでは」
「やはりですか」
武蔵を手放す、誰もがそう考えた。
しかし氏康はこうも言うのだった。
「出陣の用意をせよ」
「?ですが講和されるのですね」
「そうですよね」
「ははは、誰もがそう思うわ」
ここで氏康は声を出して笑った。
「無論相手もじゃ」
「では一体ここは」
「どうされるのでしょうか」
「また言うが河越城とは密に連絡を取り合う」
そこに立て篭もる城主の北条綱成、北条家きっての猛将である彼とは特にというのは言うまでもなかった。
「そして白い布も用
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