第七章
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「その虞美人だけれどね」
「悲しいお話ですね」
「そうだね。けれど想いはわかるね」
「はい」
「悲恋だけれどね」
おじさんは笑って言った。
「けれど項羽も虞美人もずっと一緒にいたいって願っていたんだよ」
「二人共ですか」
「玄宗と楊貴妃もだけれど」
そして項羽と虞美人もだというのだ。
「そう願ってたんだよ」
「そうなんですか」
「中国にはこうした話も多くてね」
恋愛ものも多いのがこの国だ。紅楼夢という作品もある。
「それでどうかな」
「買うならですか」
「楊貴妃にするかい?虞美人にするかい?」
おじさんは隆一に具体的に問うてきた。
「どっちにするんだい?」
「難しいですね。ただ」
「ただ、だね」
「このひなげしの花が気に入りました」
橙色の決して派手ではないがささやかな奇麗さを見せるその花がだというのだ。
「だからこれに」
「ひなげしにするんだね」
「そうさせて貰います」
楊貴妃の後ろにも花はある、だが今はひなげしだった。
だから隆一は虞美人を選んだ、そしてだった。
この絵もまた百合子へのプレゼントにすることにした。そうしてだった。
旅行を楽しんだ後で店に戻った、家に帰るよりもまず。
店に入るとカウンタ0に百合子がいた、百合子は微笑んで彼に貌を向けてこう言ってきたのだった。
「お帰りなさい、実はね」
「実は?」
「待ってたの」
百合子は店に入って来た彼の貌を見て微笑んで言う。
「ずっとね」
「僕もここにすぐに戻ってきました」
隆一も微笑んで百合子に言う。
「それで」
「渡したいものがあるけれど」
「僕もです」
二人は同時に言い合った。
「いいかしら」
「はい」
まずは隆一が答えた。
「僕からも」
「有り難う」
百合子の返事はこうだった。
百合子はカウンターから彼の前に出た。そのうえで二人で向かい合い同時に出し合った。
百合子は自分で作ったデコレーションケーキを、隆一は扇にグラスとカンフー着、それにあの絵だった。特にその絵を見せてだった。
「受け取ってくれますか?」
「あっ、その言葉は」
大学生だからだろうか。隆一にはわからなくても百合子にはわかった。
彼女はその漢字の文章を見て笑顔で言った。
「ええ、それじゃあ」
「いいですか?」
「私のケーキも見て」
百合子は答える前に彼に言った。
ケーキにはこう書いてあった。
「ずっと二人で』
誰に向けてあるかは言うまでもない、そして隆一もその文字を見てこう言った。
「わかりました」
「ええ」
百合子はその言葉を受けて満面の笑みになった。これで二人はお互いを受け入れた。
そしてお互いの黒子と痣を見てこう言い合うのだった。
「何か。不思議と」
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