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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その3
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を打つことにした。
秘密裏に核戦力を保持することと、核に比類する兵器の開発だ。
原子核破壊砲と、次元連結システムの開発だ」
 ドリスは、その仰々しい武器の名前からして、何かふッと、胸が騒いだ。
「原子核破壊砲……?」
「原子核破壊砲は、文字通り、相手の原子核を根底から破壊する兵器だ。
原子を構成する中性子と陽子のバランスを崩し、放射性崩壊を引き起こさせる兵器だ」
「私には難しい科学の事はさっぱりだ。
もっと簡単に説明してくれ」
 ドリスは、重ねて原子核破壊砲の説明を求めた。
マサキは、ひるみなく答えた。
「よかろう。
この光線を浴びたものは、その場で目に見えない原子単位で分解してしまう。
その気になれば、敵対する国の人間だけを消して、相手の国土を無償で手に入れられる兵器だ」
「そんな恐ろしい兵器を何処で使おうというのだね」
 そうした危惧を、心理を、マサキも、充分知って知りぬいていたろう。
すると、笑って言った。
「使うのではない。
持っていることこそが、それだけで力になる」
 マサキの態度は、一歩も譲っているのではなかった。
男爵は、黙るほかなく、しばし首をたれてしまった。
 悪の天才科学者の、(ろう)する奇言(きげん)
ドリスには、そう聞えた。
「中ソがなぜ国民生活を犠牲にして、核保有を急いだのか。
英仏が、強大な軍事力と引き換えに、核配備を進めたのか。
それは、核という武器があってこそ、初めて独立国として振舞えるからだ」
 マサキは、胸の奥底にはある(うず)()のような熱情の端を、このとき語気にちらと、掻き立ててみせた。
「敗戦の恥辱にまみえた日本が何故、その国体を維持できたか。
米国が君主制に憧憬を抱き、わずかばかりの仏心をみせたからではない。
日本という、不沈空母を欲したからだ。
世界の中における、極東最大の自由国家という場所に、軍事拠点を置きたかったからだ」
 聞きてのキルケには、まんざら、そうばかりとも思えない。
日米間のあつれきも、相当ひどいものと聞いている。
たぶんにそれらの感情もあるだろう。
「日本が真に自立するためには、相手に左右されない戦力を持つ必要がある。
そこで、俺は天のゼオライマーを建造し、来るべき時に備えることとしたのだ!
現在(いま)は違うが、俺なりの日本への愛国心で行ったことなのだ」
こう、結んでマサキは、持っていた煙草に火をつけた。
「そのかぎりでは、俺が、危険な科学者と呼ばれても致し方あるまい」
 マサキの言も、初めは、ちょっと奇矯(ききょう)に聞えた。
だが、キルケは、彼の無造作な言葉の端々(はしばし)には、真実がこぼれ出すのを知って驚いた。
――それとまた、自分の中に久しくいじけたままで眠っていた本来の自分が、マサキの声に
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