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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その3
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供の質問だったが、マサキを興奮させるには十分だった。
「今は、何個目の王朝なの?」
「日本は、開闢以来、一つの朝廷さ。
俺たち、日本人は、ずっと帝室と共に生きてきた」
 そして、マサキは、滔々と日本の歴史を語って聞かせた。
いきなり近代の話をするのでは理解しづらいと思い、古代から江戸時代までの大まかな事を教えたのだ。
 ドリスが出した赤ワインも、マサキを饒舌にするのに手を貸したようだった。
キルケも、ドリスに勧められて、ワインを飲んだ。
マサキの話が終わるころには、目が回るぐらいに酔っていた。

 それまで黙っていたドリスの夫である男爵は、何と思ったか。
われから先にマサキの杯に酒を注いで、愛想よくこう話しかけた。
「今までのご説明は、よくわかりました。
ただ一つ、疑問が残るのです。
貴方は何者で……狙いは何だと」
 男爵が手酌をしたのを見ては、マサキも杯を受けないわけにゆかなかった。
またその愛想笑いにたいして、にべもない宿意を以てむくうほど小心にして正直な彼でもなかった。
「俺は日本人の科学者さ……
全てが嫌になって、ゼオライマーを作ったといえば信用してもらえるかな」
 

「日本は、万世一系の皇帝を頂く王制の国だ。
戦争で勝てぬと見ると講和を結んだのは、この国体を守るためだ。
完全な武装放棄とともに、国体を守ることを米国から許された」
  はじめのほどは、ドリスもキルケも余りいい顔はしていなかった。
しかし、マサキが、まったく、他意はない様子で、ひたすら今夕の事情を()いた。
 やがて、ドリスの夫である男爵は、ぷッつり言った。
まるで、話に飽きてきたように。
「過去の事を聞いても、始まらん。
貴方の考えは、どうなのだ」
 これが何より、男の言いたかったことかも知れない。
マサキは、キルケの横顔へ、チラと訊ねてからまたドリスの面をじっと見入っている。
「フハハハハ」
 マサキは、他人事みたいに笑った。
言葉を切ると、タバコに火をつける。
「この木原マサキという男が、何を考えて、何をしようとしているのか。
(はら)ん中みせてやる」
 マサキは、こういって、二、三服(さんぷく)の煙草をくゆらしてから、ゆったりと語り出した。
自分のゼオライマー建造の動機やら、昔の思い出を、むしろ愉しげにである。
「日本という極東にちっぽけな国が経済という力で膨れ上がった。
いつの日か、必ず、日本は世界中の標的にされる。
平和ボケをした今の日本には、その抵抗力はない」
マサキはまた、こうもいう。
「この世界とて同じこと……
今の日本なら一気に攻め込める」
 彼の眼には、やがて、マサキの(おもて)に、ゆるい微笑が彫られてくるのを見た。 
「俺は起こるべき事態に備えて、いくつかの布石
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