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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その3
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推論が正しかったことに安堵した。
 貴族であるドリスの祖父が、西ドイツ政界の闇を知っているのではないか。
その推測からの行動であり、まったく当てのない行動でもあった。
 結果から言えば、マサキの読みは正しかった。
ザイン=ヴィトゲンシュタイン=ザイン候は、彼自身もヒトラーユーゲントに参加した経歴の持ち主だった。
若い頃親衛隊に所属して、空軍パイロットになり、戦死した兄がおり、これもパイロットを祖父にもつキルケにとっても幸いであった。
「こいつは預からせてもらうぜ。
美久、例の物を出せ」
 そして、後ろに立つ美久に、持って来た鞄を机の上に置くように指示した。
ジュラルミン製のアタッシェケースで、1億マルクが入っている。
(1979年当時のレートは、1西ドイツマルク=138円)

「これは一体なんですか……」
 マサキは、手の切れそうな紙幣の一束(ひとたば)をアタッシェケースから取った。
すべて、当時の西ドイツ最高額面の1000マルク紙幣で、なおかつ新札であった。
「金の件だが……全部1000マルク紙幣で、一束10万マルクほどある」
 さらに、鞄から新しい紙幣の束を出して、目の前に山と積む。
額面としては、およそ5000万マルクほどであった。
「欲しければ、倍も3倍もやろう」
「金は要りません」
「エッ!」
「私が引き受けたのは、シュタインホフ将軍が兄の戦友だからです。
そして、この国をめちゃくちゃにした共産主義者を憎んでいるからです」
「義侠心というやつか」
「左様、木原博士。
貴方は、非常に優秀で、なおかつ志操堅固な科学者でいらっしゃる。
私の方が、貴方を買いたいくらいですよ」
 マサキは、警戒心もわすれた。
正直、百倍の力を得たよろこびだった。
「フハハハハ、よかろう」
「私は、いつか、あの変節漢に一杯食わせてやろうかと思っていたのです。
ありがとうございます。博士。
まあ、食事ぐらいしか、もてなせませんが……」

 ドリスに案内されて、キルケとマサキは、屋敷の別棟にある食堂を兼ねた炊事場に来た。
ドリスの家族で、料理好きの物が立てたという。
見た感じ新築で、炊事場は、ほとんど使った様子はなかった。
 一般的なドイツ人は、火を使う食事より軽食が好きだからである。
キルケやドリスも、その例から漏れなかった。
 ドアを開けると、テーブルの上には、すでに豪華な食事が用意してあった。
酒の方も、モーゼルワインの他に、シーバス・リーガルなどのウイスキーが用意してあった。
「お嬢さん、初めまして。
私は第44戦術機甲大隊で、中隊長を務めておるもので、ドリスの夫です」
 マサキ達より先に部屋にいた男は黒髪の白人で、ドイツ軍人だった。
見あげるばかりの、実に立派な偉丈夫であった。
 
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