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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その2
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声を聞くと、キルケはますます話にのめり込んだ。
「おそらく東独大使館は、勿論の事……
留学先の寮や、コロンビア大学の構内にも盗聴器が仕掛けてあったのかもしれない。
ユルゲンは、同窓生や外交関係者にも話せなかった」
 そこまで聞くと、キルケは初めて得心の色を示した。
――それならあり得ないことではないという様子で。
「そんな陰謀は一つしかない。
国家間をまたぐ、世界的な陰謀という事だ。
それゆえに、この俺も命を狙われたのだ」
 キルケの答えは、実に明確だった。
すこしもマサキに遠慮している風もなかった。
「だから、貴方や祖父の嫌なところはそこなんです。
どうして、付き合った女の所まで累を及ぼそうとするのですか。
普通は女の事を守ろうとするのに……」
 (たお)やかな女の口から哀願を聞くと、実行したくなるのが男の(さが)である。
キルケの言葉に、マサキは、わざわざ腕組みをして答えた。
「だから俺が西ドイツにまで来て、現にこうしてお前を守っているではないか!
フハハハハハ、大船に乗った気分でいるが良い」
 キルケの言葉に、マサキが笑った。
キルケは、唇をかんだ。
「笑い事じゃないのよ!」


 マサキたちは、ラインラント方面に向かって、車を走らせた。
車に乗って早々、キルケが切り出した。
「フランス国境沿いのラインラントにある、ベンドルフへ行こうと、おもいます。
訓練校時代の親友で、代々地方領主をしていた知り合いがいます」
 キルケの話にあった、訓練学校とはなにか。
ランツベルク・アム・レヒにあるヴンストルフ航空基地内にあった衛士幼年士官学校の事である。
 同基地は1935年に新設されたドイツ空軍のために建設された。
そして、大戦後の1956年、米軍から返還されて、再び連邦空軍の基地となった。
その際に、同基地内に飛行学校が設立された。
 A飛行学校という名称で知られる学校は、設立当初から米軍の協力の元、運営された。
固定翼とヘリコプターパイロットの教育を目的とし、1963年まで続いていた。 
 飛行学校自体は解散し、訓練自体はルフトハンザ航空が引き受けることとなった。
だが、同様の訓練形式は1978年まで続き、今は第62輸送体がその任務を引き継いでいる。
 衛士訓練学校は、飛行学校の設備と訓練方式をそのまま継承して設立した軍学校である。
この異界特有のもので、法律上、14歳以上の男女が入学できた。
 だが未だに女性の実戦部隊配備への忌避感の強い西ドイツでは、その運用は違った。
その大部分は女子生徒で、男子生徒は南部のメミンゲン空軍基地で行われることとなった。
「大丈夫、貴族なら連邦政府も借りがあるから、司直も簡単に手は出せないわ」
 なぜ、キルケがそんなことを言い出したのか。

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