第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その2
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撃隊や親衛隊の関係者がいる人物に会いたい」
その時、キルケの頸から耳のあたりまで、さっと色が変った。
なので、マサキは、思わず身を前へ伸ばす。
「私はご一緒しません」
「エッ」
彼女は、目角を立てて、マサキを睨めつけた。
「貴方は、私たち、周りにいる女の事より仕事を優先する。
祖父と同じ……それが嫌で私は祖父と疎遠になったのです」
マサキは、キルケに因果を含めることにした。
「一緒に来ないというのなら仕方がない……」
言葉を切ると、タバコに火をつける。
マサキはふり向いて、浮かないキルケの顔つきへ、膠なくいった。
「だが殺されるぞ」
難かしい顔を示しながら、マサキは紙巻煙草で、すぱりとくゆらしながら、いった。
問題が重大なので、キルケは息をのんだ。
「なぜなの?」
「先ほど話した、東ドイツ軍の将校、ユルゲン・ベルンハルト。
あの男は、この事件にわざと乗った節がある」
「その根拠は」
マサキこそ、ここまで来るには、命がけだったのである。
冗談どころの沙汰ではない。
「俺が信頼しているユルゲンという男は、数十万マルクの金で転ぶような男ではない。
己の正義のためと、自分の愛した女のために、全てを捨てる。
これまで築き上げたすべてを泥にまみえても、国家のために、悪と立ち向かおうとする男だ」
ちょっとたじろいだような、キルケの顔が新鮮だった。
マサキは、まるで問題にしていないように笑って言った。
「何者かが、BNDとの二重スパイを仕立てて、ユルゲンを狙った。
……という事は、天のゼオライマーのパイロットである俺を誘い出す口実だ。
その背後には数十億マルクの金が動いたとみて、間違いない」
キルケは、のみこめない顔つきである。
もしそうだとすれば、自分の祖国・西ドイツの政治についても、だいぶ考えさせられることがある。
「しかも、来週の東京サミットの一週間前だ。
この時期に、堂々と国家間をまたいで動ける存在。
それは間違いなく、巨悪であることは明白だ」
マサキは、鋭く言った。
「ユルゲンは、駐在武官補佐だ。
外交特権もあるし、怪しいスパイに関してはシュタージや軍から教育を受けている。
ソ連留学の経験から、KGBやGRUと接触したときのように、適当にあしらうすべも知っている。
それが出来なったのだ……」
マサキは、言葉を切ると、静かにホープの箱を取り出す。
そして、静かにタバコに火をつけた。
「……だとすれば、自分の妻を通じて、密かに訴えるしか方法がない。
それほどまでに、ユルゲンの身辺は見張られていたということになるのだ。
だからこそ、身重の愛人を通じて、外に訴えたのだ」
いつになく、感情のこもった調子だった。
そんなマサキの
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