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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その2
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しんぎ)に対しての敵対行為である。
場合によっては、開戦理由になっても致し方のない事であった。
 また、1989年(平成元年)の大喪の礼の際、蘭王室は一人たりとも王室メンバーを送らなかった。
太平洋を挟んで雌雄を決した米国や、領土問題やシベリア抑留問題を抱えるソ連。
戦火による多大な被害を受けた中共、複雑な感情を持つ韓国などよりも劣った。
 東欧革命で混乱中の東欧諸国でさえ、副大統領級の人物の派遣をする。
そういう中で、オランダは、外相の派遣のみに終始した。
 このことは、ほかの王室を持つ欧州の各国の中では異様。
なおかつ、日本への深い恨みを表す一例でもあった。


 ふたたび視点をマサキたちのところに戻してみよう。
マサキは、南ドイツのミュンヘン郊外の農家民宿で、一夜を過ごしていた。
 その際、キルケと別室で休むこととなった。
マサキは安全上の問題から同室もやむなしと考えていたが、西ドイツの法律が許さなかった。
 刑法第182条、一般的に淫行勧誘罪として知られるものである。
もとは婦人の性的保護のために始まった物であり、売春から一般女性を守る法律であった。
それが過度に解釈され、未婚の男女が許可なく宿泊することが禁じられていたのだ。
(この刑法の条文と解釈は、1990年代以降改正され、今は適用範囲は未成年のみである)
その為、マサキとキルケは別室で泊まることとなったのだ。
 さて、早暁。
マサキは、キルケの部屋に行くと、ドア越しにたたき起こした。
すらりとした体にガウンをまとったキルケは、マサキの姿を認めると、襟もとに手をやりながらドアを開けた。
「おはよう。朝飯を食ったら出発だ」
「まだ5時前よ」
「面倒くさいか。
ならば、俺が脱がしてやるよ……久しぶりに女性(にょしょう)の柔肌を見たいしな」
その際、返事より早く、キルケの右手がマサキの頬に飛んだ。
 案内された食堂には、ドイツでは典型的な冷たい食事(カルテスエッセン)が、テーブルの上に用意されていた。
朝食の献立では、スライスした黒パンに木苺のジャム、冷たいハム、チーズ、サラダといった具合である。
 そしてかなり早い朝食をとった後、薄いコーヒーを飲みながら、キルケの頭がさえるのを待った。
マサキは、紫煙を燻らせながら、事の起こりとなった謎の女スパイの話を詳しく説いた。
「キルケ、今日はボンに行こう。
お前の友達に、連絡はとれるか」
「連絡は取れると思うけど……」
 キルケはじっとマサキの顔を見ながら、その眼の中のものを何とは知らず、ただこれは何事かあったなという予感を持って読みとった。
マサキは、一層声をひそめて、一言に告げた。
「俺の勘だと、旧親衛隊関係者がこの件にはかかわっている気がする。
お前の知人で、祖父や曽祖父が突
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