第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その1
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「西ドイツ大使には、連絡しておいたのか」
外相が、短く答えた。
「はい、近くの観光ホテルに待たせております」
官房長官は紫煙を燻らせながら、ぼやいた。
「いずれにせよ、西ドイツで、何かが、起こっているわけだ」
「あとは、殿下にお任せするしかないか……」
翌日の早暁、駐日・西ドイツ大使が帝都城に招かれていた。
二条城の謁見の間で正座をして待つ、西ドイツ大使の顔色は優れなかった。
事実上、日本帝国六十有余州を差配する征夷大将軍と面会するという事は非常時である。
その様に、彼が認識していた為であった。
「日本駐箚ドイツ連邦、特命全権大使閣下の、お成り〜」
在日・西ドイツ大使は、呼びかけと同時に畳に平伏した。
元帥府では、江戸幕府の行儀作法がそのまま継承されることとなった。
そのため、将軍からの声掛けがあるまでは、如何に大臣と言えども顔を上げてはならなかった。
「殿下の、お成り〜」
入室を知らせる太鼓の音とともに、畳の上を衣擦れする音が聞こえる。
着席する気配があると、そこから声が聞こえた。
「面を上げるが良い」
聞き覚えのある若い男の声。
当代の将軍、煌武院であった
将軍の声掛けで、大使は顔を上げる。
その高座の手前には、護衛隊長を務める月詠がいた。
帝国斯衛軍第1独立警備大隊が正式名称だが、御庭番衆とも称されていた。
大使は、一旦平伏し、両手で畳をついた。
まもなく日本語で、大使は型通りの挨拶を伝えた。
「殿下には、ご機嫌麗しく、この度の御拝謁、恐悦至極に存じ上げます」
「西ドイツ大使も変わりなく、何よりだ」
将軍の格好は、幕末の慣習を踏襲し、紋付き袴であったが、夏用の単仕立てであった。
「これもひとえに、殿下の御配慮のおかげかと。
日独友好の観点から、倍旧の働きに励むつもりございます」
将軍は、たどたどしい大使の受け答えを受けて、一度、相好を崩した。
再び険しい表情に戻ると、詰問調で大使に呼びかけた。
「さて大使。
すでに聞き及ぶと思うが、わが国の軍関係者が、貴国で害されてのう。
正に由々しき、天下の一大事じゃ」
「はい。
車中で耳にいたしておりますが、一体どこの何者による仕業かと、驚き居る次第にて……」
「どうやら、バイエルン州で遭難したという情報省の報告が届いておる。
ハンブルクの西ドイツ領事の推測によれば。
襲撃者の一団は、もしや、政府機関の一部らしいではないかと申して居る」
大使は立ち上がると、将軍の方を向いて、
「しばらく!」
将軍は彼の方を向いて、真剣に話を聞き入った。
「これ
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