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余命以上に生きられたから
第一章

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                余命以上に生きられたから
 江口藤香は今微笑んでいた、白く短い髪の毛の老婆で非常に優しい顔立ちで小柄で背中はやや曲がっている。見るからに弱々しい感じだが。
「いや、私は幸せよ」
「あの、ひいお祖母ちゃん」 
 その藤香に同居している曾孫の朋子が言った、小柄で丸い顔で色白で鳥の様な目をしていて唇は大きい。眉は短く黒髪は短く巨乳で半ズボンもよく似合っている。
「そう言うけれど今はね」
「癌よね」
「そうだけれど」
「末期のね」
「それで幸せ?」
「幸せよ」
 曾孫に家の廊下で日差しを浴びつつ微笑んで答えた。
「凄くね」
「どうしてそう言えるの?」
「だって九十年生きてお爺さんと六十年一緒にいられて」
「ダイアモンド婚式ね」
「それも出来てあんた達曾孫まで沢山いるから」
「それでなの」
「幸せよ」 
 こう答えるのだった。
「本当にね」
「うちの畑何度も不作で大変だったし今もそうなる時あるのに?」
「不作でも農家辞めずに済んだしね」
「いいの」
「そうよ、そのこともね」
 全くと言うのだった。
「いいのよ」
「そうなの」
「それでね」 
 さらに言うのだった。
「戦争もなかったしね」
「日本はね」
「幸せよ、私は」
「けれど今ひいお祖母ちゃん癌で」
 朋子はまたその話をした、曾祖母の前に座って向かい合って自分が煎れて出した紅茶を一緒に飲んでいる。
「末期で余命もね」
「最初は一年って言われたのよね」
「もうそれから三年だけれど」
「一年が三年生きてるのよ」 
 にこりと笑っての返事だった。
「だったらね」
「幸せなの」
「その間にダイアモンド婚式も出来て」
 結婚生活六十年を迎えてというのだ。
「お爺さんも見送れたしね」
「去年ね」
「よかったわ、だからね」
「幸せなの」
「癌でもね。一年が三年よ」
 余命がというのだ。
「それだけ生きられているから」
「幸せなの」
「一年と三年じゃ全く違うから。それに人は絶対に死ぬでしょ」
 曾祖母は曾孫にこのことも話した。
「そうでしょ」
「それはね」 
 曾孫もその通りだと答えた。
「そうだけれど」
「そうよね」
「だったらなの」
「癌で死ぬのも」
 このこともというのだ。
「いいのよ」
「死ぬのなら」
「これまで長く幸せに生きられたし」
「今もだから」
「そうよ、ひいお祖母ちゃんは幸せよ」
「そうなのね」
「そう、そしてね」 
 そのうえでというのだった。
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