第四章
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俺は自分の今の言葉は引っ込めてだ。こう返した。
「気にしないで下さい」
「そうですか」
「じゃあ。またですね」
俺は言い繕ってから席を立った。これ以上ここにいたらもっと喋ってしまうと思ってだ。
その場を慌てて去った。それからだ。
次の日講義もサークルも終わるとすぐに花屋に行った。駅前の商店街にある店に。
そこで赤薔薇の花束を買ってだ。すぐにだった。
あの人がいる場所に行った。絶対にいてくれと。いることがわかってもそう願った。
それで俺は見た。占い師さんがそこにいてくれたのを。
俺はすぐに占い師さんの前に来てだ。花束を差し出した。それからこう言った。
「あの、よかったら俺と」
「はい?」
「付き合ってくれませんか?」
こうだ。勇気を出して告白した。
「本当によかったらですけれど」
「あの、まさか」
占い師さんは顔を上げて俺の顔を見上げてきていた。自分の席から。
そしてだ。きょとんとした顔で俺に尋ねてきた。
「貴方の好きな人は」
「占い師さんです。覚えてますか、最初の占いの時のこと」
「年上の人で大学でない道の傍で夜に出会う」
「そして誠実に告白して贈りものは」
「花束。そして昨日私が占った」
「薔薇の花束です。赤薔薇の」
「全部私が占ったことですね」
占い師さんはそのきょとんとした顔で俺に言ってきた。
「それがそのまま」
「そうなりますね」
「占い師は自分のことを占ってはいけないのですが」
「けれど占ったのは俺のことですよ」
俺の恋路のこと、それを占ったことは紛れもない事実だ。
「だからそれは」
「そうですか。じゃあ貴方のことを占って」
「好きになってしまったんです」
俺は正直に、占ってもらった結果誠実に言った。俺だって嘘を言う。けれど今は誠実にいかないと占ってもらったからとにかく誠意に基いて言った。
「ですから。これを」
「実は私は」
「占い師さんは?」
「彼氏。いないです」
少し俯いて恥ずかしそうに俺に言ってきた。
「今は。ですから」
「それじゃあ」
「それに私のこと。好きですよね」
「嘘は言わないです」
とにかくだ。今はそれを言ってはいけないとわかっているから嘘は言わなかった。
「だからこそ占いで言われたそのままに」
「赤薔薇の花束ですよね」
「よかったら受け取って下さい」
どういう意味でよかったのかはお互いによくわかっていた。
「この花束を」
「じゃあ」
占い師さんは気恥ずかしそうに微笑んでからそのうえでだ。その手をそっと出してきて。
花束を受け取ってくれた。黒い、魔女そのままの服だったけれど赤薔薇の花束を手にしたその姿はとても奇麗で。俺には何か女王様の様に見えた。
ジプシークイーン 完
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