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教えない先輩
第二章

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「それを読んですれば」
「いいのね」
「大抵のお仕事はね」
「そうなのね」
「相当難しいお仕事でないと」
 さもないと、というのだ。
「マニュアル通りでないと駄目なのないでしょ」
「そうね」
 早乙女も確かにと頷いた。
「言われてみれば」
「それでよ」
「マニュアル渡すのね」
「私が教えるよりもね」
「マニュアルね」
「それを読んでやった方がずっといいのよ、それに人に教えてもらったことはすぐに忘れてしまうけれど」
 そうであるがというのだ。
「自分で読んで調べてやったら」
「忘れないわね」
「だからいいのよ、それでこれからもね」
「教えてくれって言われたら」
「マニュアル渡してね」
「読んで、でなのね」
「そうしていくわ、私もマニュアル読んでやっていってるしね」
 加瀬自身もというのだ。
「本当にまずは基本よ」
「マニュアルね」
「マニュアル通りにしか出来ないって言われても」
 それでもというのだ。
「そのマニュアルが大事なのよ」
「基本だから」
「そうよ、お酒の飲み方もね」
 笑顔でこうも言ってビールを少しずつ飲みつまみの食べ方もだった、勢いのいい早乙女とは正反対だった。
 加瀬は仕事も飲み方も他の生活もマニュアル通りに進めていった、そして大過なかったが結婚した時に。
 夫は密かにだ、夫婦が極めて親しくかつ口の堅い知人に話した。
「いや、僕が年下だからって」
「それでか」
「全部教えてあげるで」
 それでというのだ。
「一から千までね」
「教えてもらったのか」
「実践でね」
「奥さんマニュアル派だよな」
「そうだけれどこうしたことはかなり難しいからって」
 そう言ってというのだ。
「教えられたよ、実践で」
「教えることは教えるんだ」
「そうだよ、教えるべきことはね」
 こう言った、だがこのことは殆ど誰も知らなかった。マニュアルを読めというばかりの彼女も教える時があることを。


教えない先輩   完


                   2024・6・15
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