第三部 1979年
迷走する西ドイツ
忌まわしき老チェーカー その5
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、マサキはつくづく思った。
最初にあった時は、キルケもココットもマサキに敵意むき出しだった。
なのに、何事もなかったかのように平然とマサキと会食をしている。
そういう姿を見ていると、マサキは今までの事が夢の中の出来事のように感じた。
間もなく、ココットとキルケが口喧嘩を始めた。
二人とも、負けていない。
「わかっていないのう。
木原博士が西ドイツから離れるという事は、彼に危機が迫っているからじゃ」
軽くたしなめるようなゲーレンの口調には、彼女たちの苦悩を理解している気配があった。
「ハーグの奥の院にいる男は、何を欲しがるか。
もうゼオライマーは、どうでもよい……。
木原博士の命を欲しがるのじゃ」
ゲーレンは椅子から立ち上がって、開け放しにしておいた窓から外を見つめた。
「いままで一度も傷つけられなかった欧州人としての誇り。
それを傷つけた、天のゼオライマーと木原マサキ……」
「それこそ死に物狂いで、木原博士の命を狙おう……」
「とにかく、木原博士は我々を巻き添えにしないために、ここから去るのであろう」
マサキたちは、ゲーレンの邸宅を後にすることにした。
この場所をかぎつけた官憲が、いつ乗り込んでくるかわからない為である。
「さあ、行こうか」
マサキが出発をうながすと、鎧衣とキルケが立ち上がる。
鎧衣は、慇懃に頭を下げた後、謝辞を述べた。
「ゲーレン翁、お世話になりました」
「わしとしては、これ以上、何もしてやれんが……」
つづいて、キルケがゲーレンの手を取って、お礼の言葉を言った。
彼女は運転手役として、秘密裏にマサキが呼び出したのであった。
「本当にご迷惑をおかけして……」
ゲーレンは、マサキ達に忠告を告げた。
入らぬ親切とは思ったが、道に詳しくない三人のために述べたのだ。
「95号線を通って、オーストリーに駆け込むか……。
あるいは、南に下って、スイスに行く方法もある。
ただ、国境検問は厳重じゃ」
マサキと鎧衣が外に出ようとしたとき、さっと懐から一枚の書類を取り出す。
ラミネート加工のされたB7版ほどの大きさの書類だった。
「キルケ嬢、これを持っていきなさい」
「これは!」
それは、バイエルン州の身分証だった。
ゲーレンが、バイエルン州長官から融通してもらったものである。
「バイエルン州発行の特別許可証じゃ。
これがあれば、州警察や州の役人は手出しできん。
何かあれば、この鑑札を差し出せばいい」
もたもたするキルケに、マサキは声をかけた。
「急げよ」
キルケはゲーレンに一礼をすると、マサキ達の後をすぐに追いかけた。
闇夜に紛れて、BMWの白の2002ターボが駆け抜けていった。
1973年のオイルショック以前に作られたこの車は、
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