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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
忌まわしき老チェーカー その5
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疑い盗聴させている事件があった。
ジーメンスの子会社、インターアトムの技術者、クラウス・トラウベ博士が、左翼弁護士と交友関係にある。
憲法擁護局の報告が、事件のが発端だった。
 東ドイツの支配下にある、ドイツ赤軍派と関係しているのではないかと睨んでの事であった。
その際、雑誌デア・シュピーゲルなどにも報道され、トラウベ博士は辞任に追い込まれた。
 西ドイツの警察国家化の危険が議員はおろか、知識人の間でも反響を呼ぶようになった。
だが、西ドイツ政府は、BETA戦争を理由に事態のうやむや化を図った。
そういう経緯があったので、マイホーファーはシェール大統領に頭が上がらなかった。
「危険な男は殺すのが一番。
世界の政治の歴史は、倒すか倒されるかの戦争の歴史。
吉報を待っているよ」



 その頃、ゲーレンの邸宅ではマサキ達への別れの宴が行われていた。
参加者は、マサキ達の他に、ゲーレン、ココット。
屋敷の主人であるゲーレンが、乾杯の音頭をとる。
「これからの木原博士の旅路と、その成功を願って……」
続いて一同が一斉に杯を上げる。
乾杯(ブロースト)!」
 一気に、モーゼルワインを呷った。
銘柄は『リースリンク』で、色は白だった。
口当たりは良いものの、一基に流し込むとアルコールが全身に回り、血が騒ぐ。
「ありがとう」
 珍しくマサキから出た感謝の言葉に、一同は驚きの色を浮かべた。
脇にいる鎧衣は思わず失笑を漏らした。
「フフフフ」
 マサキは気にする風もなく、席に着く。
ナイフを取ると、湯気の出るアイスバインに、食指をのばした。
「変わったアイスバインだな」
「シュヴァイネハクセといいます。
バイエルン州の郷土料理で、骨付きの豚肉のローストよ」
「こういう料理を、たまに食うのも悪くないな」
「望むなら毎日作ってあげるわ」
 台所で煮炊きをするココットの姿が、頭の中に浮かんだ。
マサキは、意外な思いで見つめた。
「ねえ、木原。
すべてが終わったら、ここに戻ってきて。
そして……バイエルンのこの屋敷の主人になって、お願い」
 マサキは、ワインでのどを潤し、肉料理を口に運んだ。
肉料理は、バイエルン州の郷土料理で、シュヴァイネブラーテン(Schweinebraten)と呼ばれるドイツ風ローストポークであった。
 食事の間、鎧衣はよくしゃべったが、マサキはほとんど口を利かず、ただ相槌を打つばかり。
ココットの思わぬ言葉に、口をはさんだのは、同席していたキルケだった。
「いいえ、木原はこんな片田舎に留め置くのには惜しい男よ。
ボンやハンブルクに住む方がふさわしいわ。
それはゼオライマーのパイロットとして、当然の事よ」
 ――女とは、本当に図々(ずうずう)しいものだ――
晩餐の席で
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