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戦前の野球
第五章

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「なかったわ」
「そうなのね」
「けれどね」
 それでもというのだった。
「これからね」
「ここで飲んで」
「そうしてね」 
 そのうえでというのだ。
「楽しみましょう」
「飲んで食べて」
「そうしましょう」
「それじゃあね」
 呉も笑顔で頷いた、そうしてだった。
 二人でビールで乾杯してから一緒に飲んで食べた、呉はその中で伊月に対してこんなことを言った。
「ここに阪神の人達も来るかしら」
「選手の人達?」
「監督さんやコーチの人達もね」
「どうかしらね」
 伊月はつまみの枝豆を食べつつ応えた。
「それは知らないわ」
「そうなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「この辺りにも阪神の影響はあるわね」
 それはというのだ。
「はっきりとね」
「そうなの」
「ええ、甲子園のすぐ傍だから」
 そこにあるからだというのだ。
「だからね」
「阪神の息吹はあるのね」
「戦前からのね」
「台湾や半島の人達のそれも」
「あるわよ、高校野球だってね」
「甲子園でやるし」
「だからね」 
 そうであるからだというのだ。
「それはあるわね」
「そうなのね」
「そう思うわ」
 こう話した。
「今もね」
「そうなのね。戦争前の中学の野球ね」
「今で言う高校野球ね」
「それがね」
 呉は烏賊ゲソを焼いたものを食べながら言った。
「あるなら」
「どうしたの?」
「呉さんの魂は若しかして」
「甲子園にあるかもっていうのね」
「そうじゃないかしら」
「そうかもね」
 伊月もその可能性を否定しなかった。
「巨人や毎日にも行ったけれど」
「毎日って今のロッテよね」
「毎日と大映が合併してね」
「今のロッテになるよね」
「そこに行ったけれど」
 阪神からだ、この時阪神から多くの選手が毎日に行っている。日本のプロ野球が今のセリーグとパリーグに分裂した時のことだ。

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