最後の上官命令
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
レオナがラルフ大佐の異変に気づいたのは、山岳地帯のゲリラ掃討作戦を遂行した直後のことだった。
麓へ戻るべく下山している最中、彼の歩調が次第に鈍り始めたのだ。
もしかしたら脚に怪我を負っているのかもしれない。
「大佐……怪我をされたのですか?」
レオナはラルフの背中に向かって尋ねた。
歩みを緩めて立ち止まったラルフが前を向いたまま頭を振る。
「いいや。何ともない」
「ですが……」
「麓に下りればヘリで基地に戻れる。急ごう」
レオナの案じる声を遮り、ラルフは再び重い足取りで前進し始めた。
麓に下りたレオナとラルフは、先に到着していたクラーク中尉の部隊と合流し、待機していたヘリコプターに乗って本部基地のある空母へ帰還した。
空母は五日後に港を離れ、公海に出た。
無事に任務を終えたレオナは、同僚のウィップとともに執務室で報告書の作成に勤しんでいた。
「報告書はまだか? 今日が期限だぞ」
突然、ラルフの大声が響いた。
いつにも増して大きい彼の声に驚き、レオナはびくりと肩を震わせる。
「わっ!? びっくりしたぁ……。もう、部屋の中でそんな大きな声を出さないでくださいよ」
隣の席のウィップが大げさに反応し、ラルフを見上げて眉を吊り上げる。
「えっ? いつもと変わらんがなあ」
「またそんな大声を出して! 鼓膜が破れたらどうしてくれるんですか!」
ウィップは顔をしかめ、これ見よがしに耳を塞ぐ仕草をした。
不可解そうに首を傾げているラルフを見上げ、レオナはふと過去に読んだある記事を思い出した。
軍人や猟師など、長年銃を扱う職業に携わってきた者は難聴を患う率が高い、という内容の記事だ。
さらに、難聴になると声が大きくなりがちだとも言われている。
もしかして大佐は、耳の聞こえが悪くなっているのでは……。
一抹の不安が胸をよぎり、レオナはとっさに椅子から立ち上がった。
「大佐、お話ししたいことがあるのですが」
「おっ、めずらしいな。ここじゃ話しづらいことか?」
「……はい」
「そうか。じゃあ、大佐室へ行こう」
ラルフはくるりと背を向けて歩き出した。
彼に従い、レオナは執務室を出て正面にある大佐室に入った。
入口正面に大きな執務机と革張りの椅子があり、その横に応接用のソファとローテーブルが配置されている。
レオナはラルフの指示に従ってソファに座り、彼と向かい合った。
「――それで、話っつうのは何だ?」
ラルフが気さくに尋ねてきた。
一呼吸置いてから、レオナは率直に話し始めた。
「大佐は、耳が遠くなられたのではないかと……」
「お前もそう思うか……。最近、左耳の聞こえが悪
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ