最後の上官命令
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くなったような気がしてな。やはり難聴になっちまったようだな」
ラルフは沈んだ声で言い、小さく息をついた。
「ま、戦場でドンパチやってる人間には付き物の症状だ。なっちまったもんは仕方ねえ。お前も気をつけろよ」
いつもの軽妙な口調に戻ったラルフが白い歯を覗かせる。
しかしその笑顔はすぐに消え、青い瞳が灰色に曇っていった。
翌日、ハイデルン総帥から異動通達が発出された。
それによると、ラルフは今月限りで陸上部隊大佐の任を解かれ、来月からマーシャルアーツの教官に任命されるとのことだ。
後任の大佐は現在選定中と書かれていた。
あの大佐が、前線から退いてしまうだなんて……。
レオナは信じられない思いで異動通達のメールを凝視した。
だが、早くも翌朝にラルフから後任者のグラント中佐を紹介され、いよいよレオナは強く思い知らされた。
ラルフが特殊部隊から去ってしまう日が迫っているという事実を。
それからラルフは引き継ぎで忙しくなったのか、執務室に顔を出さなくなった。
そのことについてウィップは、「これで仕事を邪魔されなくて済むわね」などと言い、明るく笑っていた。
レオナはとてもそのようには思えず、日に日に喪失感を募らせていった。
瞬く間に月末を迎え、ラルフ大佐の退任が迫ってきた。
昼のうちに指揮官クラスの隊員達だけで行われた送別会とは別に、レオナはクラーク、ウィップと一緒にラルフの送別会を開くことにした。
定刻で仕事を終えて執務室を出たレオナは、寝室に置いてある送別の花束を取りに行くため、居住区画へ向かおうとした。
その時、ちょうどミーティングルームから出てきたクラークと鉢合わせした。
レオナはすぐさま直立して敬礼し、
「お疲れ様です、中尉」
「ああ、お疲れ様。仕事は終わったか?」
「はい。これから大佐にお渡しする花束を取りに行ってきます」
「そうか。よろしく頼む。それと……」
わずかに唇の両端を上げたクラークが手のひらを上に向け、人差し指をちょいちょいと動かしている。何か話があるのだろうか。
レオナは数歩近づき、クラークとの距離を縮めた。
「……何でしょうか?」
「だいぶ前に、大佐からバンダナをもらっただろう? それは取ってあるか?」
クラークが小声で尋ねてきた。
レオナも声を潜めて「はい」と答える。
「よかった。じゃあ、それを髪に結んできてくれ。きっと大佐が喜ぶぞ」
あのバンダナで髪を結ぶと、なぜ大佐が喜ぶのかしら……?
そんな疑問を抱きつつ、レオナはクラークの指示に対して「了解」と返事をした。
クラークと別れたレオナは寝室に戻り、赤地に緑の迷彩柄が施されているバンダナをロッカーから取
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