第一章
[2]次話
眠るより泣きたい夜に
仕事帰りのデートの時に彼と思いきり喧嘩をした、喧嘩の理由は何でもないものだった。
下らない理由で喧嘩した、それで私は彼と怒って別れて電車に乗って家に帰った。
暫く怒っていたけれどやがて何で起こったのかわからなくなってきた、そして酷いことを言ったと思って悲しくなった。
彼を傷付けた、そう思うと辛くて仕方なかった。それで家に帰るとすぐにだ。
シャワーを浴びてとりあえず身体を奇麗にしてからいてもたってもいられなくなって家にあるお酒とあえず目についたワインをストレートで飲みはじめた。白ワインも赤ワインもあるけれどどちらもだ。
兎に角飲んだ、おつまみはその辺りにあったチーズなりサラミなりだ。リビングのテーブルでひたすら飲む私にだ。母が眉を顰めさせてそのうえで私に言ってきた。
「彼氏さんと喧嘩したの?」
「悪い?」
「そんな時もあるけれど」
それでもとだ、私はグラスにワインを入れて次から次に飲む私に言ってきた。
「飲み過ぎよ」
「わかってるわよ」
私は開き直って答えた。
「私だってね」
「わかって飲んでるのね」
「そうよ」
まさにその通りだった。
「こうしてね」
「泣いてるし」
「泣きたくもなるわよ」
ここでも開き直って言い返した。
「正直言ってね」
「きついこと言われたの」
「私が言ったのよ」
「そうなのね」
「汚れちまった悲しみね」
中原中也の詩をここで思い出した。
「今それがわかったわ」
「全く。頭にきてもね」
「言葉には気をつけろよね」
「相手はもっと傷付いてるわよ」
「そのことがわかってるからよ」
私はさらに飲みながら答えた。
「今はね」
「飲んでるのね」
「そうよ、もう今日はね」
それこそだ。
「飲めるだけね」
「飲むのね」
「このままだ泣きたくなって」
そうしてだ。
「一旦泣きだすとね」
「止まらないのね」
「そうなりそうだから」
事実涙が流れている、このこともわかっていた。
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