第一章
[2]次話
老人の性欲
定年に達してだ、かつては女好きで十代二十代の頃には頭の中は女のことばかりだった藤本菊造は隣の先に定年を迎えていた南敦房に言った、二人は皺だらけの顔で白髪である。藤本は色黒で面長で南は四角い顔で太っている。
「四十になると急に性欲がな」
「ああ、衰えるだろ」
「そうなってな」
二人で一緒に観並の家でコーヒーを飲みつつ話した。
「今はな」
「もう殆どだろ」
「ないよ、若い頃と比べたら」
「十代に十代とか」
「まさにその頃と比べたらな」
それこそというのだ。
「驚く位だよ」
「落ちたな」
「いや、人間衰えるとは聞いてたよ」
藤本は南に真剣な顔で言った。
「それがな」
「性欲は特にだな」
「うちのもな」
妻の喜久子今も美人と言われる彼女のことも話した。細く奇麗な目でやや面長で白いもの一つない黒髪のロングヘアで一六四位の背でスタイルがかなりいい。
「三十代の頃はな」
「ああ、女の人はな」
南はその話を聞いて言った。
「三十代からがな」
「そうした欲が出るっていうな」
「どんどんな」
「それでわしもその頃もな」
「楽しんでいたか」
「ああ」
まさにというのだ。
「そうしていたけれどな」
「それでもか」
「もう今じゃな」
定年を迎える様な年齢になると、というのだ。喜久子も定年と言っていい年齢に達しているのである。
「そうしたことは全くな」
「なくなってるな」
「そうだよな、うちもな」
「同じか」
「食欲はあるさ」
こちらの欲はというのだ。
「それで寝たいしな、金だってな」
「やっぱり欲しいな」
「けれどな」
それでもというのだ。
「性欲ってやつはな」
「四十になる頃からな」
それこそというのだ。
「どんどん衰えて」
「今だとだろ」
「殆どな」
「ないな」
「ああ、枯れ木みたいだよ」
「そうだな」
「身体は動かしていてな」
ここで藤本はこちらの話をした。
「毎日水泳してるよ」
「あんた学生時代から水泳してるな」
「そうしてな」
そのうえでというのだ。
「健康でいるけれどな」
「やっぱり運動はいいな、わしも散歩してな」
「かなり歩いてるな」
「身体の調子がいいな」
「それで食欲はな」
こちらの欲はというのだ。
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