第103話 憂国 その3
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て眼だけはこちらを品定めするような顔つきで現れた。
「どうも。取材を快くお受けいただきありがとうございます。ウィークリー・ニュータイズのパトリック=アッテンボローです」
そう言って差し出された手を俺が無意識に取ると、アッテンボロー氏は一瞬体を硬直させ、ちょっと驚いたように握手した手と俺の顔を見比べる。
「どうかしましたか?」
お互い応接のソファに座り、チェン秘書官が淹れた珈琲とジャスミンティーの芳香が漂う中で俺が問うと、アッテンボロー氏は皮肉そうな笑みを浮かべてつつ肩を竦めた。
「いや、失礼。軍の高官の方に対して、いきなり握手はどうかなと思ってたんですが、あっさりとしていただいたのでちょっと驚いているんですよ」
「軍の高官なんて。小官は何処にでもいる一中佐に過ぎません」
「中佐と言えば戦艦の艦長か、巡航艦分隊の先任指揮艦長でしょう。部下だけでざっと一〇〇人から五〇〇人。民間で言えばちょっとした会社の社長ですよ?」
世間知らずだな、と言わんばかりの口調。まぁ、数え二七歳の若造で、軍以外の世界を知らないとなれば、普通はそうなのかもしれないし、いままでアッテンボロー氏が相手にしてきた高級軍人達もそうだったのだろう。たかが民間会社の社長と一緒にするな、とか馬鹿な勘違いをして怒った奴が以前居たのかもしれない。
が、生憎前世の記憶のある俺からするととてもそんな気にはなれないし、現時点で部下は三人でうち二人は勝手に仕事しているし、もう一人は手に負えない化蛇だから、数多くの部下を持っているというイメージがどうしても沸かないのだが。
「軍にお詳しいんですね」
とりあえずそんな内心は隠しておいて、人当たりのいい優しい青年将校の微笑みを浮かべつつ応えると、アッテンボロー氏は苦笑を浮かべて頭を掻く。
「私も徴兵は経験していますが、その辺の実情に詳しいのは、妻の父が軍人で、息子も軍人をしているからでして」
「ダスティ君は実に優秀な軍人ですよ。恐らく三〇歳になる頃には、閣下と呼ばれていると思います」
「……ご存知でしたか。あぁ、いや、愚息のことをですが」
「間に一人入ってますが、直接話したこともありますよ。『軍人じゃなくてジャーナリストになりたかった』って言ってたのをよく覚えてます」
実際は欠片すらも言ってはいないのだが、これくらいのイジワルはダスティ君(笑)も許してくれるはずだ。だいいち嘘は言ってはいない。
「アイツ、本当にそんなことを言ってたんですか? よりにもよって軍人貴族のお坊ちゃま……失礼」
「仰る通り軍人貴族のお坊ちゃまで、士官学校時代には『悪魔王子』と呼ばれてましたよ」
キッチンのある方からカチンと陶器を弾く音が聞こえてきたので、慌てて被せるように大きめの笑い声をあげる。わざわざ報復に化蛇を呼び込
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