第103話 憂国 その3
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纏め、面会者を誘導し、お茶を入れてくれている。
「ボロディン中佐。昨日は私事で急なお休みをいただき、誠に申し訳ございませんでした」
面会と書類提出が一段落し、隣室の部下二人の気配がなくなったタイミング。超一流企業の社長秘書と言っても差し支えない清楚と品格の見事な結晶というべきお辞儀に、つい昨日中身を知った俺は一瞬顔が引き攣ったが、軽く咳払いをして心を立て直してチェン秘書官に向き合った。
「いや、こちらも『所用』で休みの日に迷惑をかけた。代休というわけではないが、もう少し長く休んでも良かったのだが」
「これからが『本番』なのですから、中佐も私も早々休むわけにはいきませんわ」
えい・えい・むんと腕を絞るような真似はせず淡々と答えるのは余裕のなさの表れか。もっともそれが正常なのであって、今まではナメられていたのかもしれないが。
「中佐。それも踏まえまして、まだ日程的に余裕があるうちにお決めいただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんです?」
「中佐個人宛に取材依頼書が届いております」
思わず口に運んでいたジャスミンティーを吹き出しそうになる。前世の俺はごく普通の社畜で取材を受けるようなことは一度もなく、今世では士官学校卒業成績優秀者のお決まり取材以外は受けたことがない。マーロヴィアでは海賊対策もあって司令部に対する取材は一切お断りであったし、エル=ファシル奪回作戦では爺様やモンシャルマン参謀長が応対していて俺はどちらかというとコーディネート側だった。
「些か問題のある人物ではありますが、特定の団体が背後にいるわけではなさそうです」
相手の身体検査は済んでいますよ、ということ。つまり受け答えさえ間違えなければ大して問題が起きるとは思えない相手である、とすれば軍の広報誌かなと高をくくってチェン秘書官が手渡した取材依頼書に目を通して……自然と唇の右端が吊り上がった。
「……誰が紹介したか、少し問い詰める必要がありそうだな」
「私ではありませんが、お知り合いでしたか?」
「士官学校の後輩の父親だ。それなりに名の通ったジャーナリストとして知られている、と聞いたことがある」
「反軍的思想の持ち主のようです。それでも取材を受けられますか?」
あまりお勧めしませんと言った口調ではあったが、俺としては望むところの相手だ。揚げ足を取られることもあるかもしれないが、最近とかく周辺に増えてきた魑魅魍魎の類ではない、筈だ。あんまり遅らせて予算審議の邪魔になったり、『後輩』が父親から愚痴られたりするのは忍びない。
「受けましょう。既に決まっている予定を優先の上で調整してください」
「かしこまりました」
それから四日後の夕刻。俺のオフィスに鉄灰色の髪を持つ壮年男性が、人好きするような、それでい
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