第103話 憂国 その3
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高い。ヤンは睡眠薬など飲まず夜中までユリアンとこれからの戦略談義で盛り上がってただろうし、ユリアンのブラスターが『最期の』地球教徒の額をぶち抜いてシェーンコップの到着までヤンを守り切っただろう。
俺とドミニクの間を引き裂いたのは恐らくルビンスキーであろうが、他国の駐在武官の人事に警告したのはフェザーン自治政府であり、その当時も最高責任者はワレンコフだ。それを知っていてドミニクを使って俺に連絡を取っているのだから、偶然であるとはいえ人間として好意的になる要素はあまりない。
だとしても地球教の幹部達が考えている未来と、俺が望んでいる未来は全く以て異なる。サイオキシン麻薬を信者達に平然と使うような奴らと同じ次元に居たいとは思わない。もっと単純に言えばルビンスキーよりはワレンコフの方がマシだ。もう間に合わないかもしれないし、引き金になって暗殺が早まる可能性もあるが、それだとしても……
「……とつぜん申し訳ありませ〜ん、中佐ぁ。私ぃ、今日ぉ、料理しててぇ〜包丁で手を切ってしまったみたいなんですぅ。明日は病院に寄ってからぁ〜出勤してもぉ〜いいですかぁ?」
「……あぁ、そりゃあ、大変だね。いいよいいよ。なんなら明日一日ゆっくり休んでいいよ。使ってない有給休暇をドンドン消費してくれないと、僕が総務部からいろいろ言われちゃうからね」
「えへ。ありがとうございますぅ〜中佐って優しい〜んですね☆」
“きらーん”とか本当に言いそうな笑顔で二〇代前半のホステスが、腰を折り上目遣いで首を傾け小さく敬礼するのを見て、俺もやる気なさそうに手を振って応えた。
ここに留まって悪霊共の情報収集をしながら暗殺阻止の援護射撃をするのか、即座に船に乗ってフェザーンに向かうのか。決断するのは彼女だ。時間に余裕がないのも確かだが、短慮に走るよりははるかにいい。直ぐにフェザーンに発てる船のアテは勿論あるが、途中で襲われる可能性を考えれば、彼女に勧めない方がいいだろう。バイバーイと小さく手を振って去っていくチェン秘書官の姿を見送りつつ、着替えてホテルに向かう準備をするためベンチから腰を上げた。
それにしても人格の切り替えの速さもさることながら、外見二〇代前半、公称三三歳(実年齢四六歳)のギャル語にはとてつもない破壊力があるのだと、ボロの積層装甲下で総毛立っている自分の両腕を摩りながら思い知ったのだった。
◆
ホテルで無事に手紙をミリアムに手渡した後、イケメンの旦那も含めボランティアを続けるのは極めて危険な状況であると話したにもかかわらず、まったく意に介さない若夫婦と別れて二日後。いつものように出勤すると、いつものようにチェン秘書官も出勤していた。脇目で右手を見てみたが、人工皮膚なのか僅かに盛り上がってはいるものの、まったく不自由なく資料を
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