第103話 憂国 その3
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身に纏わりついてくる。
「地球の怨霊共はどうやってあの人を殺すつもりだ?」
「そこまではわからない」
「チッ、ただの勘かよ」
「少なくとも貴女を通さず、俺に例の話について連絡してきた」
「ハッ、赤毛の小娘か」
さらに俺が手紙を出そうとすれば、首を廻し『バカか』と言わんばかりの視線で仕舞うように視線で促してくる。確かに渡されたところで彼女にはその真偽を確認しようがないし、内容は百も承知のことだろう。
そして血が止まったのか、ミニバックから色物のハンカチを取り出し、口と左手で器用に短冊状にして包帯のようにタオルハンカチの周りを縛っていく。痛みの確認なのだろう右手を閉じたり開いたりしながら、チェン秘書官は大きく溜息をついた。
「あの人も意外と抜けている」
「長期休暇をとってもいいんだぞ」
彼女にとってワレンコフは『あの人』というほどに忠誠を捧げている相手のだろう。ただの組織の上司というよりもさらにずっと深い信頼関係があるのかもしれない。だったら四五〇〇光年離れた場所で若造の秘書官として情報収集に勤しむよりも、より『やりよう』がある筈だ。そう言ったつもりだったが、あるいはそれを理解したのか、少しだけ哀愁の成分が含まれた諦めの顔をしてチェン秘書官は応えた。
「あの若造がトリューニヒトの傍に来た時点で警告は出している。今更、私一人が護衛に増えたところで危険が去るわけではない」
絶望的なまでの距離。自分の連絡経路が既に地球教に傍受されているとしてもどれだか分からない。しかも自分を通さずに俺へ連絡を取ろうとしたというある意味では信頼の欠如が、彼女にとって一番堪えているのかもしれない。
「それに命の危険があるのは貴様も同じだ。まさかそこまで分からないほどマヌケではあるまい」
「俺はいい。少なくとも俺が怨霊共に殺されたら、犯人を絞め殺してやろうとしてくれる親類知人はそれなりにいる」
グレゴリー叔父さん、シトレの腹黒親父、ビュコック爺様、おそらくウィッティとバグダッシュ、それにアントニナとブライトウェル嬢。時々の地位や立場もあるだろうけど、少なくとも俺がこれまで生きてきた中で、彼らが地球教に対し報復を躊躇するほどの悪行を俺は積んでいない。遺書を残しておけば、いきなり市中で狙撃されたとしても、草の根を分けて犯人を捜してくれるだろう。殺せるものなら殺してみろ、それは八〇〇年の捲土重来を全て焼け野原にしてやるぞと自信をもって言える。
「信頼できる盾は一枚でも多くあるべきだ。その最後の一枚が凶弾を防ぐことだってある」
もしヤン=ウェンリーがあの三人に加えてユリアンを連れていたらどうだったか。あるいはフレデリカやマシュンゴ、ポプランを連れていたら……結果は変わらなかったかもしれないが、変わっていた可能性の方が
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