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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第103話 憂国 その3
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はコーンウェル公園の川縁にあるベンチの一つ。俺はミハイロフの店ではないスタンドでビールを買い、ベンチに腰を下ろす。

「……お隣よろしいかしら? ミスター・レーシィ」

 買ったビールを傾け、固いベンチの背に首を預けて空をぼんやり眺め黄昏ていると、左肩の上からチェン秘書官の声が聞こえてくる。口を開けたまま首を傾けてみれば、赤丹色のウェーヴのヴィッグを付け、厚化粧した如何にも『出勤前』のいでたちをしたチェン秘書官が、肩に小さなピンク色のミニバックを掛けて立っていた。

「ここはパブリックの公園だ。どうぞお好きに。ミス・ホアシォ(化蛇)」

 俺の回答におほほほほと右手を口元に当て、品がありそうで全くない笑い声を上げて、変装したチェン秘書官は俺の隣に座る。ベンチに座る肉体底辺労働者と安スナックのホステスのペアを見て、こいつらが国防政策局戦略企画参事補佐官とその秘書官と見抜けるのは、監視カメラで宿舎から追跡している暇人ぐらいなものだろう。俺もチェン秘書官も、あえて視線も合わせず、他人のふりで少しずつ落ちてきた陽光を反射する川の輝きを見つめる。

「なかなか分かりませんでしたわ。素人さんにしては堂に入ってますわよ」
「そのいでたちも中々だ。意識して見なければ貴女とは思えない。ただその髪の色はどうにも気に入らないが」
「あら。お好きだと思っていたんですけれど、お気に召しませんでしたかしら?」
「好きだから、気に召さないんだ」
「よかったですわ。間違ってなくて」

 バッグから出した香水のスプレーを自分の顔に吹きかけるチェン秘書官に、俺は顔を向けることなく舌打ちをする。少ない休日に呼び出した訳だから嫌味の一つや二つは当然だろうが、当て擦りのやり方が実にキツイ。

「お話しがあると、伺いましたが」
「貴女の忠誠を誓うボスについて、一応ね」
「私のボスは中佐ですわよ?」
 嘲笑というよりは、分かっていてもそれが誰だか分からないだろうと高をくくったような口ぶりだったが、俺は気にせずビールを飲み、水紋を眺めつつ話し続ける。
「今年中に暗殺される可能性がある。即座に身辺警護を厚くするよう伝えてくれ」

 俺が言い終えるよりも前にベキッという鈍い音と共に、フローラルの香りがベンチ周辺に濃厚に漂う。透明性の高い硬質プラ容器であろうが、握っていた右手から香水と共に赤いものが流れ出ていたので、俺は何も言わずクロスバッグのポケットからタオルハンカチを取り出して左手で差し出す。

「……期日・方法は?」

 タオルハンカチを右手に当てるチェン秘書官の声は、いつもの妖艶でもなければポヤポヤしたものでもない、殺し屋のような凄みのある低い声に変わっていた。間にクロスバッグを挟んでいるとはいえ、殺気という以外に言葉が見つからない気配が、俺の左半
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