第103話 憂国 その3
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。勝手に『Bファイル』などという名称を付け、ご丁寧にフェザーン(自治政府)がこのドクトリンに対して出資可能な額と、建造可能な自動攻撃衛星の数にメンテナンス費用まで想定していただいている。
つまりはトリューニヒトとワレンコフの間にはどこかで繋がりがあり、俺の口から滑った話が伝わった。国家としてのフェザーンとしては、別に帝国と同盟が対立していれば熱戦だろうが冷戦だろうが関係はないし、巨額の投資チャンスと、人口増による市場拡大は実に魅力的だから出来れば状況を進めたい。ただ組織としてのフェザーンとしては、銀河の世情がそれなりに安定してしまっては『創業以来の大株主』の目的が達せられないという矛盾がある。
その矛盾をいかに解決するか。いろいろ考えたのであろうが結局ワレンコフは、八〇〇年待った怨霊達を説得するより調伏を狙ったと考えられる。そしてワレンコフの離反的な動きに勘づいた怨霊は、異端な教義を吹き込もうとしている相手は誰か調査し、同盟の若手有力政治家であるトリューニヒトに行きつき、その膝元に監視役として悪霊を送り込んだ。気の長い怨霊のくせに、行動力とアンテナは実に鋭い。
ということは、Bファイル(笑)自体が悪霊の手にあるわけだから、俺がこの手紙にどう答えようと距離と時差で敗北した可能性が高い。結局は返事を渋った俺の罪だ。
この件についてのトリューニヒトのスタンスははっきりとは分からない。しかし地球教徒側としては同盟をコントロールする為には実に良い手駒だと思っているだろう。俺がトリューニヒトの忠実な賢い犬であるなら見逃してくれるかもしれないが、先だってのヴィリアーズ氏の目付きを見る限りそれは難しそうだ。
またこれで女狐の主人が誰だかハッキリとわかった。ダブル・トリプルどころかクワトロスパイなんて、一体どんな神経をしてたら耐えられるというのか。今のところは敵ではないか、あるいは敵の敵は味方という点だけは安心できるが、共同戦線を敷いてもここから逆転ホームランを打つにはあまりにも遅く手数も足りない。しかし暗殺を防げるかどうかは分からないにしても、今打てる出来る限りの手は打つべきだ……ドミニクやミリアム達の為にも。
映話で女狐の所在を確認し昼過ぎに変装して会うことを伝え、リニアを乗り継ぎ駆け足で官舎に戻りドミニク宛の手紙を書く。一応ワレンコフに問われた内容の返事も書くが、それとは別に遠慮一切なしに一文で。たとえルビンスキーに寝取られるような未来であったとしても、ドミニクもミリアム達もここで死んで貰いたくはない。
午後三時。官舎近くの公共トイレで髪を掻きほぐし、付け顎髭にサングラスに薄汚れたボロといった底辺青年労働者の装いに着替え、手紙を着替えた軍服のジャケットと一緒にクロスバッグに入れる。幾つかの路線を乗り継いで向かう先
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