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老人の優しさが救う
第二章

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「道路を」
「渡りたくてもな」
「車が行き交っていて」
「それでな」
 その為にというのだ。
「怖くてな」
「そうですね」
「こうした時はな」
 老人はここでだった。
 懐から林檎を取り出した、そうして言った。
「わしが一肌脱ぐか」
「その林檎で」
「ああ、わかるか」
「獣医なので」 
 自分の職業を出して答えた。
「生きもののことは」
「そうだよ、こうした時はな」
「食べ物を見せて」
「それで釣ってな」 
 そうしてというのだ。
「誘導するんだ」
「今なら道を渡る様にですね」
「その様にな」
「そうですか」
「だから今からな」
 まさにというのだ。
「行ってくるよ」
「サポートしていいでしょうか」
 老人に自ら申し出た。
「これから」
「親切だな、そうしてくれるかい」
「これも何かの縁かと」 
 老人に笑顔で応えた。
「鹿を見てお話をしたのも」
「だからかい」
「はい」
 今回も笑顔で応えた。
「ですから」
「それじゃあな」
「宜しくお願いします」
 こう話してだった。
 彼は実際に老人のサポートをしてだった。
 老人が鹿に林檎を見せてそして鹿を道路の向こう側まで誘導し道を行き交う車に待ってくれとジェスチャーするのをサポートした。
 鹿は無事に道を渡れた、そして老人から貰った林檎を美味しそうに食べるとその後で老人に顔を向けて。
 そして森の中に消えた、その一部始終を見届けてだった。
 彼は家に帰った、そうして妻にこのことを話すとだった。彼女は笑顔で言った。
「よかったわね」
「鹿をそうして助けるなんてね」
「本当にね」 
 まさにというのだ。
「素晴らしいわ」
「そうだよね」
「ええ、優しさはね」
「生きものに対してもね」
「ずっと持っておきたいわね」
「全くだよ」
 夫も確かにと頷いた。
「本当に」
「私達もね」
 笑顔で話した、そしてだった。
 夫婦はこれまで以上に生きものに優しくなった、そうして獣医の仕事をしていった。彼等の命を救う為に。


老人の優しさが救う   完


                  2024・5・23
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