第八十六話 野心家達の春
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ルムは激高した。
「ぬうううう、出遅れたか!」
ヴィルヘルムは犬歯をむき出しにして次期皇帝選出レースに遅れた事を悔やんだ。
そして、これから自分が何をしなければならないか、答えを瞬時に出した。
「使者殿ご苦労! これより協議に入るため、我がベルヴィンで休まれるが良い、失礼する!」
「あ、あの……」
急使はヴィルヘルムを呼び止めたが、頭に血が上ったヴィルヘルムの耳には届かず部屋から退室してしまった。
「はあ……ゲルマニアはどうなってしまうのだ」
急使はため息を付いて窓の外を見た。
窓の外には春が訪れたとはいえ、未だ寒風吹きすさぶベルヴィン市の姿が見えた。
外出している市民は少なく、閑散とした雰囲気が市内を包んでいた。
ベルヴィン市を始めとするブランデルブルク辺境伯領は、ハルケギニアでは北に近い位置にあるため、雪の量はそれ程でもないが、寒さで作物の育ちが悪く、土地は痩せていて、逆に南に位置するオーストリ大公のヴィンドボナは、温かく作物の育ちが良い為、国力においては天と地との差がある。
寒村と言っても差し支えない領土ばかり有するブランデルブルク辺境伯が、次期皇帝選出レースにおいて、最有力候補者であるオーストリ大公のライバルである最大の理由は、ゲルマニア最強の軍事力であるゲルマニア騎士団を配下に持っているからである。
急使の報告を聞いたヴィルヘルムは、家臣達を前にゲルマニア騎士団の出動を命じた。
「このままオーストリ野郎に玉座をくれてやる訳にいかん。我らもプラーカに赴くぞ。すぐに騎士団に出兵の命令を出せ、今すぐにだ!」
「か、畏まりました!」
「各領地からも動員を始めよ。ぼやぼやしている暇は無いぞ早く行け!!」
ヴィルヘルムの怒声に家臣達は怯え、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの仕事の散った。
家臣達が居なくなった部屋で、ヴィルヘルムは大き目の椅子に腰を掛けると、自慢のカイゼル髭を撫でた。
「まったく。使えない奴らだ」
減らない口で、一言ヴィルヘルムが呟いた。
カイゼル髭の中年男、ブランデルブルク辺境伯ヴィルヘルムは好戦的な男だ。
その有り余る野心の割りに能力はそれ程でもなく、さらに激しい性格が災いして人望は無い。
そんなヴィルヘルムが、野心を隠す事無くむき出しにしても非難を受けないのは、全て強力なゲルマニア騎士団の後ろ盾があっての事だった。
☆ ☆ ☆
ベルヴィン市からさら北に行った所に、プロイゼン地方と呼ばれる土地があり、その地はゲルマニア騎士団の本拠地である。
ゲル
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ