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濃い味が大好き
第一章

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                濃い味が大好き
 サラリーマンの加瀬彰隆は濃い味が好きだ、その為料理には常に対象のソースをかける。彼はソース派であった。
「またそんなにかけて」
「これが美味いんだよ」
 妻の彩陽に軽く返した、丸々と太った小さな目の中年男だ、髪の毛はそろそろ薄くなってきていて背は一七四程だ。
「濃い味が」
「そんなこと言って前の健康診断で引っ掛かったでしょ」
 妻はこう返した、丸顔で大きな丸い目と小さな唇で黒髪を後ろで束ねている。背は一五七位で三十代後半でそれにふさわしい肉付きになっている。
「だからね」
「気を付けろだね」
「そうよ」
 夫にまさにと答えた。
「血圧がね」
「わかってるけれどね」
「わかってないわよ、あまり塩分摂り過ぎたら」 
 それこそというのだ。
「身体に悪いから」
「駄目だね」
「どうしても濃い味が好きなら」
 若い頃は痩せていたが今は見る影もない夫に言った。
「運動しなさい」
「そうよ、お父さんこのままだと死ぬわよ」
 若い頃の母親そっくりの中学生の娘の里佳子も言ってきた、食べているのは父親と同じコロッケと野菜炒めだがどちらにもソースをかけていない。
「高血圧でね」
「死ぬって」
「死ぬわよ、死ななくても成人病で倒れるわよ」
 娘はこの残酷な現実を突きつけた。
「そうなっても私知らないから」
「お前までそう言うのかい?」
「娘だから言うのよ」
 容赦のない返事だった。
「わかったらね」
「節制かな」
「そう、節制して」
 まさにというのだ。
「気を付けてね」
「ソース控えないと駄目かな」
「それが嫌なら運動したら?」
「運動なんだ」
「歩いたり自転車に乗ったり」
 具体的な運動のことも話した。
「お父さん学生時代自転車部だったのよね」
「大学までやってたよ、選手もして全国大会にも出たよ」
「じゃあその頃みたいによ」
「自転車なんだ」
「自転車今も好きでしょ」
「大好きだよ」
「じゃあそれに乗って」 
 そうしてというのだ。
「身体動かしてね」
「このままソースを楽しみたいなら」
「そうしてね」
「お風呂もじっくり入ったら」 
 妻はこちらの話もした。
「汗かくから」
「湯舟に浸かると」
「あなたいつもシャワーだけれど」
「湯舟にしたらいいんだね」
「そう、だからね」
 それでというのだった。
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