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弟が寿司職人で
第一章

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                弟が寿司職人で
 八条住宅大阪本社の営業部でエースと言われている湯浅命は兎角接待上手で知られている、その接待の店はいつも決まっていた。
「梅田の八丁に行きましょう」
「その店かい?」
「はい、接待先は」
 上司に社内で話していた、穏やかな感じの垂れ目で黒髪を奇麗にセットしている。やや面長で口は広く薄く背は一七四位で痩せている。
「そうしましょう」
「今回もだね」
「はい、やはりです」
「いいお店だからだね」
「あのお店にです」
「取引先の人達をだね」
「案内しまして」
 そうしてというのだ。
「そのうえで」
「接待をするんだね」
「そうしましょう」
「君はいつもあそこだね」
 上司は湯浅の話を聞いて言った。
「そうだね」
「はい」 
 否定しない返事で答えた。
「いいお店なので」
「うちの系列店だしね」
「外食部門の」
「だからだね」
「そうです、うちのグループの系列店で」 
 八条グループのというのだ。
「それでいいお店ですから」
「今回もだね」
「接待はです」
 これはというのだ。
「あちらにしましょう」
「確かにいいお店だ」
 上司も認めることだった。
「それなら」
「はい、あちらで」
「接待をしよう」 
 こう話してだった。
 実際にその店で接待をした、その店の寿司は実に美味く接待は上手くいった。だがその接待の時だった。
 上司は寿司を握っている職人の一人湯浅そっくりの顔の彼をちらりと見た、だが多くは言わなかった。
 そして接待の翌日だ、湯浅は梅田の居酒屋で弟と飲んでいた、その弟こそだった。
「健次郎、昨日も美味かったぞ」
「それは何よりだよ」
 弟は笑顔で応えた、二人共今はスーツである。
「俺もね」
「ああ、お前に事前にね」
「店のお勧めのネタ聞いて」
「お酒もな」
「それでな」 
 そのうえでというのだ。
「接待先にしてるからな」
「いいんだね」
「やっぱり美味しいものを食べたら」
 つまみの刺身を食べつつ言った。
「その分な」
「接待もはかどるね」
「だからな」
 それでというのだ。
「お前が高校出てすぐにお店に入って」
「寿司職人になって」
「それも腕のいいな」 
 そこまでのというのだ。
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