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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第102話 憂国 その2
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括安全運航本部長はとうにお見通しだったらしい。本部長のスコアもいつもの通り酷いありさまだが、今日の俺はそれを上回る。

「大変申し訳ございません。やはりわかってしまいますよね」

 仕事が忙しいとか、対処不能な問題があるとか、いきなりそういう返事はNGだ。どんな正当な理由があろうとも、全て言い訳になってしまい、相手の気を悪くしてしまう。まずは謝罪。ついで事実の承認。否定的な言葉を使わずに、理由を相手に質問させるように誘導する。

「なにか悩み事でもあるのかね。君が頭を抱えなきゃならん程の話となると、結構大事とは思うが」
「そんな大事ではないのですよ。問題点はだいたいわかっているのですが、もう少し上手い解決法がないかと考えて悩んでいるところでして」

 相手に必要以上の警戒を抱かせないよう、状況はコントロールできていると説明し、現在は解決に向けた段階にあると納得させる。そして、相手に全く同じ状況になった場合を考えさせる。

「ラジョエリナさんとしては、こう、もうちょっと上手い方法はないかなと悩んでいる時、どういう風に気分転換されます?」
「んんん?」
「運航本部長をされていた頃は、色々と大変なこともおありだったと思いますが、行き詰ったような時、どのように気分転換されてました?」
「気分転換か……」

 かなり太い腕を組み空に浮かぶ雲をしばらく眺めていたラジョエリナ氏は、カートが止まると黙ってドライバーとボールとティーをむんずと掴んで、ティーグランドへと向かう。俺も同じものを持ってその後についていく。

 第五ホール・五四二ヤード・パー五。コース七割方のところに森で囲まれた強烈なクランクがあり、第一打で距離を稼ぎ、二打目か三打目に一度きざみをいれなければいけない。森を直接超えるのであれば、二打目に相当な角度と飛距離が必要となる。だがラジョエリナ氏は容赦なく真っすぐに森の手前へと第一打をもっていった。

「ボロディン中佐はどんな趣味がある?」
「趣味? ですか?」
「私は模型が趣味だ。自社の中型高速貨客船(スーパーライナー)シリーズの二〇〇〇分の一模型を自分で作ったり、集めたりしている。中央航路だけでなく辺境航路用毎のカラーリング、それに放射線汚れや熱焼けなんかをウェザリングで表現すると実に楽しい」
「は、はぁ」

 ゴルフバックを引き摺りフェアウェイをのっしのっしと歩く、明らかに肉体派のラジョエリナ氏が三〇センチ前後の模型を見てニヤニヤしている姿は、想像するだけでもなかなかにシュールだ。

「だが本当に気分が滅入っている時は手を付けない。妻とも仲良くしないし、家族旅行にも行かない。普段と全く別の自分を作り、街に繰り出して酒を浴びるほど飲み、女と遊び、犯罪にならない程度の不道徳の限りを尽くす」
「……」

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