第102話 憂国 その2
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に対する当てつけだろうか。トリューニヒトは思い出話のようにゆっくりと抑揚なく話し続ける。
「ほとんど児童養護施設で暮らしていたと言ってもいい。それでも勉学に励み、働きながらもポレヴィトの通信制大学を首席で卒業した。故郷ポレヴィトに対する深い愛情が故に、辺境海賊の討伐で成功実績のある君に縋りつく思いがあったのだと思うよ」
「そうかもしれません。ですが……」
俺がそれに反論しようとすると、トリューニヒトはすぐに左掌を俺に向けて、俺の言葉を塞ぐ。
「君の言いたいことも分かる。軽々しく君が口を開くなどと思われては、私としても迷惑だ。彼にはしっかりと私から釘を刺しておくよ」
「……」
「君も言う通り、彼はとびきり優秀な青年だ。官僚になればたちまち頭角を現すだろう。彼はポレヴィト選出の同盟評議会議員を目指しているが、まだ若くて付き合い方では未熟なところもある。そこを指導するのもまた、先達である我々の任務だと思うのだがね」
家庭的に恵まれない地方から出てきた野心溢れる優秀な若者に、政治のイロハを優れた中央の先達が指導する。実に美しい話だ。一〇代向けの小説であれば、さしずめ俺は主人公に上から目線でイチャモンをつけるいけ好かない坊ちゃんエリートと言ったところか。物語中盤に打倒される、口先だけの使えない先輩みたいな。
そして大ボスであるトリューニヒトは、俺とヴィリアーズ氏の両方を子飼いとしたい、というのか。政治のヴィリアーズ、軍事のボロディン。なるほどそういうふうに俺が解釈してくれると思っているのかもしれない。だがトリューニヒトの執務室を出る時ヴィリアーズ氏とすれ違ったが、一瞬だけ見えた奴の俺を見る目にはそんな殊勝さなど欠片も感じられないほどに、毒々しい元素が含まれていた。
ヴィリアーズという名前は確か英語だ。同盟は銀河連邦の正統な後継者として標準語を使っているが、その基本となる言語もまた英語だ。だから奴がここハイネセンでヴィリアーズと名乗っているのは決して間違いではない。
奴の名前は、その元になったフランス語であろうから。
◆
「今日の君はだいぶ上の空だな」
雲量三といったごくごく普通の空。ハイネセンから超音速大気圏内航空機で二時間。亜熱帯に位置するビューダーオ・カントリークラブの第四ホールから第五ホールへ全自動カートでの移動中。横に座っているペアを組むラジョエリナ氏が、バンカーに落として這い出すのに砂だらけになっている俺を見て、俺に聞こえるくらいの小さな声で囁いた。
「いつものようながむしゃらさがない。今日一日とにかく無難にこなそうという雰囲気が漂っているぞ」
接待される側からそんな指摘をされるというのは大失態だ。自分としてはいつもと変わらないプレーと会話だったつもりだが、百戦錬磨の元統
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