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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第102話 憂国 その2
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ありましたら、改めてお話をお伺いさせていただきたいです。『マーロヴィアの狐』と名高い手腕を是非とも」
「さすがに過大評価ですよ。それは」

 耳にしただけで思わず口を付けたふりをした珈琲を吹き出しそうになる。バグダッシュから聞いた俺に対する異名は、もうこんなところまで伝播しているのか。俺がマーロヴィアでやったことは大筋の作戦立案だけであって、星系内の海賊討伐は爺様が、情報工作はバグダッシュが、実働戦闘指揮はカールセンがやったことだ。それにパルッキ女史が行政側で踏ん張っていたからこそ、治安回復はなったと言っていい。

「報告書については統合作戦本部の資料室に収められていると思います。トリューニヒト先生の関係者であれば、もしかしたら閲覧可能なのではないですか?」
「せっかく作戦立案の当事者と直接お話しできる距離にあるのに、わざわざ閲覧申請を出して血液採取までされてその上で数か月待たされた上で、都合のいい事しか書いてない報告書を読むなんてどうかしていると思いませんか?」
「正規の手続きとはそういうものだと思いますよ」
「仰る通りですが、中央政府のそういった無意味な形式主義が、ハイネセンと地方の意思疎通の劣化を招いているのではないですかな?」
「海賊討伐という機密に関わる情報について、小官の口が正規の手続きに劣ると思われるのは心外ですな」

 知り合ったばかりの、どんな人間かすらわからない議員私設秘書に、ペラペラと軍事機密を話せるわけがない。今すぐぶんコイツを殴ってファイルを取り戻そうと思わないでもないが、ファイルをコイツに渡せと言ったのはほかならぬトリューニヒトだ。奴の防諜に対する無神経さは救いがたいが、その批判はそのまま指示に従ったバカな俺にも帰ってくる。
 こいつがここでファイルを開くようなら力づくで奪い返す。いくら時間がかかってもトリューニヒトに直接渡すのを見届けなければならない。足を組み、腕を組み、ジッと無言でヴィリアーズ氏を睨みつける。睨みつけられたのが分かったのか、ヴィリアーズ氏も眉間に皺を寄せ、こちらから視線を逸らさない。

 だが睨み合いは一〇分も経たず、唐突にトリューニヒト自身が執務室に帰ってきたことで終る。

「わざわざ私のことなど待っていなくても良かったのだが、どうかしたのかね?」
 雨が降っていたのか少し湿気たコートをハンガーにかけながら、トリューニヒトは微笑を浮かべて言った。
「ヴィリアーズ君とあぁも睨み合っているのは尋常ではないが、もしかして君達の間には私の知らない怨恨でもあるのかね? だとしたらセッティングした私のミスだが」
「いえ。ヴィリアーズ氏と小官は、今日が初対面です」

 確かに初対面ではあるが、『知らない』相手ではない。先程まで豊かな頭髪と若さと気軽さに気を取られて、別人だと勘違いし
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